星を掴む手

(※こちらのお話から続いています)



「っていう事があってね」

緩く髪を結いながら、寝間着姿の数馬が今日の出来事を語る。
布団に寝転び、忍たまの友を開いて翌日の範囲に目を通していた藤内は、ふうんと相づちを打った。
夕方、委員会から戻る最中、やけに嬉しそうな作兵衛とすれ違ったがそういうことだったのか。

「身長かぁ。小さい方が小回り効いていい気がするけどな」
「藤内は大きいもんね」

微笑む数馬も決して小さい方には数えられない。
三之助や藤内のように日毎進捗が目に見えてという程ではないが、緩やかに、しかし着実にその上背は増している。

「ねぇ藤内、手を見せて」

呼ばれて、教本を閉じて数馬に向き直った。
手を広げて差し出すと、さっそく柔らかい指先が触れる。

「藤内も手、大きいね。まだまだ伸びるよ」
「本当?もういいんだけど」
「作兵衛が聞いたら憤死しそうなこと言うなぁ」
「だって…女装の実習の時大変なんだよ」

自分は委員長のように器用じゃない、と項垂れる真面目な同級生の肩をぽんぽん叩いていると、部屋の出入口の障子がすらりと開いた。

「数馬、ちょっといいかな…何してるの?」
「あ、孫兵」
「いらっしゃ〜い」

いぶかしげな表情のまま廊下に立ち尽くす孫兵を、二人して空いた方の手で招き入れる。
孫兵は若草色の装束についた泥を部屋に落とさぬよう、上着を脱いで廊下に置いてから部屋に足を踏み入れた。

「どうしたの?怪我?」
「うん…ちょっと…」

孫兵が口ごもりながら二の腕を差し出すと、数馬の表情が曇った。

「これはまた…派手にやったねぇ。ジュンコ噛まれたの?」
「いや、ジュンコじゃなくて生物委員会の毒虫にちょっと…あ、でもちゃんと捕まえたから大丈夫」

今日は逃してないよ、と誇らしげに言う。
それが常態だろうなんて突っ込みはもう同級生は誰もしない。
藤内は部屋に常備してある救急箱に手を伸ばしながら、よかったね、と微笑んだ。
孫兵の上腕部に手拭いをまいていた数馬は藤内から救急箱を受け取ると中から薬用酒と軟膏と正方形に切った清潔なさらしを数枚取り出した。
そして傷口からの毒の侵入を防ぐ為に火薬により無惨に削り取られ肉の殺げた患部を消毒する。
白い肌に生々しく浮いた、赤い痕跡の対比が痛々しかった。

「一応出血は止めるけど、毒が体に入っちゃってたら今晩から辛いよ。何ともなくても、しばらく保健室に通ってね」
「わかった」

口を動かしながらも、てきぱき正確に処置を進める数馬とそれに大人しく頷く孫兵を見つめていた藤内が、あっと声をあげた。

「孫兵、手のひらにほくろがある!」
「え?ああほんとだ」

患部に当てたさらしごと包帯で巻いていた数馬も思わず処置の為に仰向けて投げ出されていた手を覗き込んだ。
薬指の付け根辺りにぽつんと黒く染みのようなものが浮いている。

「あぁ、これは…」
「手のひらにほくろがある人って、星を掴んで生まれて来た人なんだって。必ず幸せになれる手相らしいよ」
「ええ?!それ僕にはないの?!」
「数馬は…どうだろう」
「どういうこと?!」

孫兵においてけぼりを食らわせたまま、けんけん言い合いを始める二人に、最初はどこで真相を告げるべきかとはらはらしていた孫兵だが、終いにはまぁいいか、と表情を緩めた。

昔、今日のように毒虫に噛まれた挙句、落とし穴にはまってしまったことがある。
その時裏裏山まで探しに来て引っ張りあげてくれたのは、作兵衛、三之助、左門の三人だった。
その後今ここにいる二人が追いついて、藤内が肩を貸してくれて、数馬が応急処置をしてくれた。
手のひらに入り込んだ木屑が取れないよと泣きながら、一生懸命手当てをしてくれた。
その後みんなで保健室まで送ってくれて、今の保健委員長が治療を続けてくれたのだが、沈着した色素が取れることはなく、今も掌に刻まれている。

あの頃より幾分大きくなった数馬と藤内のやり取りを見つめながら、孫兵はそっと手を握り微笑んだ。

僕の星は君たちだ。





(三反田、浦風、伊賀崎)
(2011/2/11)
(2011/2/12〜2011/3/16 拍手御礼)









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