理想の現実




ぼくには憧れの人がいる。

彼はぼくの同室者の一人で、がりがりのやせっぽちだ。身長ばかり高くて肉付きの薄い頼りない体つきなのに、出会ったその瞬間から瞳だけは誰よりも生き生きと輝いていた。

彼は口が悪い。生意気だとよく怒られてる。時には手を出されることもある。
そういう日は部屋に帰ってこない。もう一人の同室者の保健委員は心配して怒るけど、ぼくは彼の気持ち、わかる気がする。
腫れあがったほっぺたを見られたくないんだ。弱ってる姿を見られたくないんだ。

彼は勉強をしない。出来ないんじゃなくてしない。なんでしないのかっていうと、それが一番能率がいいって知ってるから。彼には学校でいい成績をとっても誉めてくれる親はいない。だったら試験勉強に全力を傾けるより、授業はちゃんと受けて試験勉強はそこそこにして、授業料稼ぐ為のアルバイトに精を出した方が効率がいいから。

彼は運動神経がいい。ぼくがいつまで経っても出来ない二人人馬。彼は、ぼくたち三人組の中で一番最初に壁を超えた。忍びになるんだと言って越えていった。


きり丸はかっこいいね!

ぼくは心からの尊敬の念を込めて言ったことがある。
彼は、ぼくの顔をしばらく見つめて、笑った。

しんべえはそのままでいりゃあいいんだからな。

その言葉に含まれていた意味を僕が知るのは、もっとずっと先のこと。






(福富、摂津の)
(2010/12/16)









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