幸福な食卓




「いっただっきまぁーす!」

パァンと手のひらを打ち合わせる音と、十一人分の声が重なった。
元々静かとは言い難い食堂だが、他の生徒が何事かと振り返るほどにいっぺんに騒々しさが増す。

「何の騒ぎ?」

おばちゃんから定食を受け取っていた彦四郎は誰に問うともなく呟いた。

「あれだよ」

先に席についていた左吉が忌々しげに吐き捨てた。
同時に指し示された方向に首を巡らせて、ああ、と破顔する。
奥の長机丸々陣取って、幼い頃から左吉がこれでもかと敵視している面々が勢ぞろいしている。微笑ましく眺めていたら、は組の学級委員長と目が合って手を振られた。

「は組は今日も元気だな」
「うるさいだけだよ。全くいつまでたっても成長ってもんがない…」
「左吉の言う通りだ」

苦々しげな左吉の横で然りと大きく頷く伝七である。
言いながらも目が釘付けな二人に、お前らも何も変わらないよと内心で苦笑しながら、彦四郎は二人の正面の席に着いた。

「でもちょっといいよねぇ」

彦四郎の横で一平がお茶をすすって笑った。

「さっき三治郎に会ったんだけどね、すっごく嬉しそうに、今日はきり丸も揃ってみんなでご飯なんだ〜って言ってたんだぁ。は組は特別忍務とかない限り、皆でご飯食べるんだって。誘いあってさぁ。面倒くさいこともあるけど、やっぱり一人よりみんなで食べるご飯の方が美味しいんだって」
「それはまた、は組らしいな。一平、ちょっとこっち向け。米粒ついてるぞ」

一平の頬を拭っていると、左吉が低い声で、でもと噛みついた。

「迷惑は迷惑だろ!奴ら人数多いから場所取るし、後輩びっくりするし」
「本当だよ…」
「うわああああ!」

突然脇から入ってきた声に左吉が悲鳴を上げて茶碗を投げ飛ばす。
それをお盆で受け止めて、何事もなかったかのように青い顔を巡らせたのは、ろ組の伏木蔵だ。
頬に米粒をつけたままの一平がこりゃまた不運と悪びれもせずに声を上げる。

「一番奥の目立たないじめっとした席は、ろ組の指定席なのに…」
「あんなに賑やかじゃあ目立ってしょうがないよ…伏木蔵…今日は他のところにしよう…」
「えぇ〜…」

不満げに唇を尖らせる伏木蔵を後ろから追いついた怪士丸が苦笑しながらなだめる。

「ほら、あっちで平太と孫次郎が席とっておいてくれているよ」
「…うん…」彦四郎は一平にこちらを向かせようとしながら、聞いた。

「ろ組もみんなでご飯なんだな?」
「うん、今日はたまたまね…伏木蔵が声かけてくれたから」
「それはい組も同じでしょ…?」

みんな揃ってご飯じゃない。
言われて、はたと顔を机に戻す。奇遇なことに他の三人も同じことを考えていたらしい。全く同時にお見合いになってしまった。

白いご飯と温かいお味噌汁、魚はあってもなくてもいいけど、君たちはいてくれなきゃ困る。






(いろは組)
(2010/12/24)









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