幸せだねって笑うんだ




今日はタコ壺に全部で十八回落ちたけど奇跡的に手にしていた落とし紙は全て無事だった。
A定食が目の前で売り切れたけどB定食も美味しかった。
後輩の宿題を手伝ってたら自分の宿題をやる時間がなくなったけど、その宿題を提出した後輩は過去最高点が取れたらしい。
話しながら、乱太郎が筆を走らせるのは提出出来なかった課題の補習だ。
筆の動きは全く澱みがない。
根が真面目な乱太郎はこんな課題、半刻もかからず終わらせるだろう。
だがその評価は、団蔵と喜三太と手分けして課題をやっつけ、ギリギリ期日通りに提出した俺より下だ。
器用貧乏ここに際まれりという奴か。
組んだ腕の中に顔を埋めたまま、上目を遣って乱太郎の顔を覗き見る。
西日に照らされた乱太郎は発光しているみたいに見えた。生徒が長屋に引き上げた後の、味気のない教室がぱっと照らされたようだ。
眩しくて直視出来ない程に輝く人は、ふと首をひねった。

「きりちゃんは今日はなんでここにいてくれるの?バイトは?」
「課題の不正バレて土井先生に一日謹慎食らった」

団蔵に全員分の写し任せたのが敗因だよなぁ、と呻いたら頭上から笑い声が降ってきた。

「愛弟子がこれじゃあ、土井先生の胃炎完治の日は遠いねぇ」
「うるせー。さっさと済ませろよ。飯食いに行こうぜ」
「わかった。頑張る。せっかくだから長屋に寄って皆誘ってから行こうよ」
「なんでだよ」
「だってきりちゃんが皆と一緒にご飯食べられる時間に学園にいるの、奇跡じゃない」

皆も貴重な体験を共有したいはずだよ、と笑う乱太郎の手は徐々に速度を上げて紙面を滑る。
なんだか口惜しくて、ちょっかい出してやろうかとも思ったのだが、顔をあげた瞬間ふくふく笑う乱太郎が視界に飛び込んできて、溜め息を溢すに留めざるを得なかった。






(摂津の、猪名寺)
(2010/?/??)
(titled by 惑星)









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テーマ「人外ファンタジー」
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