初雪が降る夢を見た。 はらはらと舞い落ちる雪片を見上げていたら、いつしか自分自身が淡く発光する白になっていて、雲間から射した陽光に溶けてしまうという夢だった。 床から起き上がって、瞬間襲ってくる寒さに身体を震わせた。 横では丸く饅頭のように膨らんだ布団が一定のリズムで動いている。 そっと抜け出して障子をそろりと開けてみた。 冬の夜明けはまだ遠く、ようやく墨色の闇が薄れて紺色になろうというところだった。 きっと今日も晴天だ。 やや落胆しながら息を吐くと、冷たい空気が白く濁った。 背後で同室者が身じろぐ気配がして、そっと部屋を出て障子を閉めた。 先ほど帰ってきた彼は、憔悴しきった顔に満足気な笑みを浮かべて、卒業課題達成を報告した。 伝七が終わったら次は僕だ。 忍術学園の卒業試験の課題は、本来教員宛の依頼がそのまま提示される。 すなわち、たまごとして安全の保証された実習ではなく、プロとして挑む最初の仕事が卒業課題なのだ。 内容はすでに各々に開示されている。 僕に下されたものは、ある出城からの密書奪取。 構造は単純だが、手にしなければならないのは交戦中の城を二つ抱え更にもう一つの城と開戦間際と囁かれる城の最新型兵器の設計図である。 正直に言いますと、と担任の安藤先生は、お得意な駄洒落を挟むことなく、暗い表情で言った。 佐吉が一番心配です。 今まで数々の課題を危なげなくこなしてきた。 優等生と言われることを誇りに思っていたし、それに見合うだけの努力も重ねてきた。そこには驕りも慢心もなかった。 それでも震えが来るのだ。 依頼主はこの城に雇われて設計図を描き、その機密を守る為に村事焼かれ家族を失ったという。 課題が言い渡されてから、委員会で後輩に仕事を教えている時、教室で伝七や彦四郎、一平と話している時、幾度となく、もしも自分のせいで、と置き換えた。 もしも自分のせいでこの笑顔が、痛みや苦しみに歪んでしまったら。 そうならない為の今までなのだと何度も言い聞かせた。 それでも、これほどまでに経験の不足を悔やんだことはなかった。 吐く息が白く大気を染めては薄れて消える。この吐息が濁らなくなる頃、自分達はこの学舎を巣立たなければならない。 心にしんしんと降り積もる雪が雑音を消していく。 一緒に自分も消してくれたらいいのに、と思った。 そんな空虚な物思いは吐息のようにふわりと暫く大気を漂って掻き消えた。 了 (任曉) (2010/12/9) (titled by 惑星/) |