廊下に居並ぶ柱を拭き清めている時に、その不思議な印に気が付いた。 最初はただ、学園の財産がなんて痛ましい、と指を這わせたのだが、それが何らかの意図を持って居並んでいると気がつく迄にそう時間はかからなかった。 小さく柱を抉るように引かれた線は、無数。 かけそく細い線もあれば、太くどっしり腰を据えた線もある。 自分の身長よりも高い所にある線をしばらく難しい顔で見つめていて、ああ、と思い至った。 雑巾を握りしめて長屋を振り返り、襖をスパンと開く。 「ねぇ汚物二人、ちょっと面貸してよ」 部屋の中にいた二人は当然、非難轟々だが、文句を言う奴らの後ろに広がる亜空間を顎で示してやると大人しく出てきた。二人に従うように出てきた大小有象無象の昆虫を端から叩き潰して、襖をきっちり閉めた。いっそ燃やしてしまいたい…なんて思いながら向き直り、きょとんと突っ立っている埃まみれの二人の腕を掴んで柱の側に立たせた。 「なんだよ伊助ぇ」 「情緒不安定だな…更年期障害か?」 「黙れ鉄砲オタク、そして馬鹿。はい、背筋ぴしっと伸ばして」 ぶーぶー言いながらもちゃんと背筋を伸ばす辺り憎めない。学年でも五本指に入る背の高さを誇る二人は、自分よりもずっと印に近づいた。 だが、届きはしなかった。 一人ふんふんと納得して、二人を行ってよしと開放する。 「まだまだ先人には敵わない」 呟いた言葉の真意を図りかねたらしい二人がそろって顔を見合わせるのがおかしくて、密かに笑みを溢した。 了 (二郭、加藤、佐武) (2010/11/25) (titled by 惑星/) |