これの続きのようなそうでないような… ―― 「風丸君、今時間あるかい?ちょっと俺の話を聞いてくれるかな。」 聞いてくれるかな、の語尾には疑問符がない。それでもノックは控えめだ。そしてそれと同じくらい控えめな声と共に、ヒロトは今日も飽きずにやって来た。何処にやって来たのかと言えばライオコット島ジャパンエリアのイナズマジャパン宿舎・俺の部屋だ。 今日も飽きずにやって来たということは、今日も懲りずに円堂に現を抜かしていたということでほぼ間違いないだろう。まあそれはそれでいいとして、何故俺が話を聞かなければならないのか…。 何を気に入ったのか知らないが、どうやら俺はヒロトになつかれているらしい。別に悪い気はしないが特別良い気もしない。 強いて言うならば円堂ノイローゼになりそうだということくらいか。 「今日はどうしたんだ?」 それでも、こうして誰かが頼ってきてくれるのは嬉しいことだと思うわけで、どうしても邪険にしたりはできない。しかもヒロトの場合は、本来なら皆の話を聞いてくれる筈の円堂には相談出来ないだけにますます、俺が話を聞いてやらなくちゃという妙な使命感にかられる。 「今日、ふと気がついたんだけど、俺は円堂君と付き合うどころか彼と向き合うことすらままならないみたいなんだ。」 前言撤回してもいいだろうか。 ヒロトには悪いが、ちょっともうこの時点で頭痛がする。どうしてこう、いつもいつもとんでもない角度から話がやってくるんだろうな。話についていけない俺は困惑を隠せない。 「はあ…、それで?」 我ながらあんまりにもな反応しか出来なくて申し訳ないと少しだけ思うが、ヒロトは全然気にしていない。こいつにとって俺というのは会話相手ではなく、あくまで話す相手だから返事の内容よりも聞いてもらえることの方が重要なんだろう。 「俺は、円堂君のすべてが好きだ。その中でも特にあの眼が好きでね。でも、あのきれいな眼を見ていたいとは思うけど、彼の眼に見られていたいとは思わないんだ。いや…見る、という意識的行為以前に、視界に入るのすら嫌なんだ。」 ヒロトはいつも少しだけ難しい言葉を使う。きっとそれだけ頭が良いんだろう。何故その回転の良さを他のことに活かせないんだろうか…そう思うと同時に、その回転の速さでずっと円堂のことを考え続けているとしたら、それは恐ろしいことだとも思う。その上、決して幸せな考え事ではないから下手したら同情すらしてしまいそうだ。そんなヒロトに、凡人の俺が何かうまい返事を見つけられる筈がない。 「でも…、見る為には見られるしかないじゃないか。」 「そう。だから、こんなにも好きなのに、見詰めあうことすら出来ないんだ。」 「…どうしてそこまでして嫌がるんだ?」 「彼の眼がとてもきれいだからだよ。きれいなモノを目の前にすると、人間っていうのは畏怖する生き物なんだ。美術館なんかで彫刻の傍に寄ったりするの、嫌にならないかい?もしくは、美人が怖いとかそういう心理と同じじゃないかな。畏怖というのがピンと来なければ、劣等感とかそういうものでもいい。俺の場合はそれに加えて、あんなにまっすぐな円堂君に対して口にするのも憚られるような感情を抱いているからね、尚更だよ。」 長く小難しい説明を聞いて、思うことはひとつ。そうか、お前はそんなに邪な想いを円堂に対して抱いているのか…ということだ。勿論、思っても口にはしない。 たが、旧知の仲とも言える友達に対してそんな想いを抱いている奴が居るというのはなんだか複雑な気分だ。 「風丸君となら、こんなに近くで眼と眼を向かい合わせても、全然苦じゃないのに…。」 そう言って、まるで試すようにビー玉みたいな色をした瞳がこっちを見てくる。少なくとも俺の乏しい知識の中にその色の名を見つけることは出来ない。奥の方まで覗こうと思っても、色味はどんどん深さを増すばかりだ。 何も考えずにその彩りに魅了されたままでいると、ひどく神妙な表情を浮かべた俺が瞳の奥から見つめ返していることに気がついた。なんとなく、気まずくなって眼を逸らす。 ああ…、そうか。 「ヒロト。」 「なんだい?」 「俺、お前の気持ちが少しだけ分かったかもしれない。」 「へえ?…分かってみて、どうだった?」 「…いつでも話、聞いてやるよ。」 「そっか…。」 「ありがとう、風丸君。」 ヒロトは少しだけ哀しそうな顔で微笑んだ。もう一度、ちゃんと視線を合わせる。 濁っているのか澄んでいるのかわからない瞳の奥には、同じように哀しそうな顔をした俺がいた。 瞳にまつわるシンパシー |