海に捧ぐ独白 | ナノ


! 年齢操作/死ねた


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俺が愛したのは生涯、後にも先にもただ一人だった。
どちらかの性が違ったなら。そう思わなかった日がなかったとは言わない。だが二人が同性だったからこそ、きっと俺は彼を好きになったのだ。もし二人を取り巻く事柄の、そのほんの少しでも違えば、俺達はこうして親密な友愛をすら築けなかったことだろう。人生とはそういうものだ。そして、そうした深い友愛があったからこそ、俺の想いは叶わなかったのだ。
打ち明けよう。叶わなかったというのは少々語弊がある。実際のところ、俺は叶えようとすらしなかった。ただそっと佇みその傍に在っただけだった。だが、それだけでこの心は穏やかにどこまでも満たされたのだ。同時に、隣に在るという細やかな願いすら潰えてしまうのが、怖かったのだ。臆病なことだ。
それほどまでに彼を愛していた。

とても明るい男だった。
率直で正義感に溢れ、曲がったことを嫌う男だった。
誰にも分け隔てなく接し、よく笑う男だった。
海をこよなく愛し、波と共にあるような男だった。
俺にはとても眩しかった。彼が俺に絶大の信頼を寄せ、無防備に笑いかければ笑いかけるほど、身の内の恋慕が裏切り感情であるような気がしてならなかった。
その疑わない性格を利用して、好きだと告げたこともある。もちろん純真な彼であるから、同じ言葉を返してくれたのだ。
嗚呼、あの時の震える想いよ…!
罪悪感に身を焦がしつつも、彼の口からその音が出たことに大きなよろこびを得たのだ。
浅ましく姑息な男だ、俺は。性根がどこまでも女々しく腐敗している。
そんな俺ですら、海のように寛容な心でもってして許してくれるのではないかと僅かな希望すら抱いているのだから。
すべては何もかもが手遅れだと云うのに…。

沖縄の海はどこまでも続き、どこまでも青い。手にした冷たいぬくもりはその存在をそっと示すだけだ。
風は凪いで空は雲ひとつ無い。

俺はこれから先、しゃんとお前の名前を呼べもしないだろう。情けないがこれは誇張でもなんでもないんだ。お前を少し思い浮かべるだけで、様々な感情が溢れて胸がつかえる。ただ、それでも。
今日だけは震える声音でお前の名を紡ぐよ。

「俺はずっとお前が好きだったよ。…綱海。」

解放してやれば躊躇なく、心地好い風と共にさらさらと煌めいていく。見逃さぬようにじっとその光の粒を追いかけた。

託された遺志の重さを、最初は友情に対する裏切りの代価なのだと思った。悟っていて、口にはせず。しかし許せなかったのだと。
だが、もしかしたら。海の青さに彼が一瞬一瞬溶けていく様を見ながら、ふと思った。


潮風が、ふわりふわりと。
濡れた頬を撫でていく。