困った天然 | ナノ


彼に糖分は必要ない


本棚。サッカー雑誌とその専門書に昔の教科書ノートが並ぶ。誰がどう見てもサッカー少年100%な品揃えだ。てめえは週刊少年誌の顔だろ、と理不尽な差別をしてみても漫画なんざ一冊も置いてやしねえ。隅の方にそれとなく宮沢賢治が置いてあって、こんなん読むんだなと一つ発見。
勉強机。物が整然と置かれてある。宿題とおぼしきプリントが揃えて置いてある所から、やっぱり学校でも真面目ちゃんであることが分かった。試しに引き出しを開けてみるがなんっっもおもしれえもんは入ってねえ。ああ、すっげえ短くなった鉛筆が捨てずに箱に閉まってあったのはちょっとウケたか。こいつそういうの捨てられなさそうだもんな。
クロゼット。まあ…センスっつうのは人それぞれだよな。

こんなにいちいち部屋の中を見て回るのも、全ては暇だからだ。源田のくそ野郎は勉強机じゃない方の小さな机で一生懸命レポート用紙に新聞紙を切り貼りしてやがる。明日発表があるのを忘れてたんだと。ったく、この俺が来てやってんのに政治家のおっさんとにらめっこってどういうことだよてめえは。
本人に似て淡白な部屋を物色するのにも飽きて、またベッドに腰かける。
眺めるのは後ろ姿。広い背中とか服越しにでも分かる筋肉のラインとかそういうことはさておき、改めてまじまじ見るとこいつマジですげえ髪型してやがる。毛量が多くてなんつうか大型犬みてえだ。
何気なくその後頭部に思い切り手を埋める。そのままわしゃわしゃ撫でると一瞬びくっとして、さっきは一通りなにをしてもレポート作りに熱心だったのがぴたりと止まった。
気にせず撫で続けてみるが、嫌がるわけでもただ固まってやがる。髪の間から覗く耳がものすごく赤い。あ…?こいつもしかして…。試しに背中に手をあててみる。普段よりあたたかい。というか、熱い。おまけにどっどっどっどっ、と心臓が物凄く早く脈打っている。もしかして、が確信に変わった途端に堪えきれなくなって吹き出した。

「…っ、はは、はははは!んだよてめえ照れてんのかよ。」

今度は両手で盛大に撫でる。最早撫でるっつうか毛をかき混ぜてるだけに近い。それでも源田は動かない。テーブルの上に置いてある手はぎゅっと握られている。ベッドから降りて直に床に膝立ちになり、後ろから耳元に唇をぎりぎりまで近付けた。

「照れてんのかよ、ん?」

ついでにぺろりと耳朶を舐めてやると、勢いよくテーブルに突っ伏すもんだから、ごつ!そんな間抜けな音がした。頭大丈夫か…?

「……、れてない」

遮蔽物があるせいでくぐもった声はいらいらする程小せえ。遠慮なくシャツん中に手を突っ込み、背中に直接触れる。相変わらず心臓は騒がしく跳ね回っている。

「今まで散々いろいろヤってきたっつうのに、源田くんは頭撫でられたくらいで照れてんのかよ?お前こういうのが好みなのか?」

首筋にちゅ、といつもはしないような優しい口づけ。熱い肌と触れ合う手のひらがしっとり汗ばんできたので背骨をつ、となぞりながら引っこ抜く。

「…。お前に、優しくされるのに、慣れてない。」

見える限り耳も首筋も笑えるくらい赤い。多分、普段の俺なら遠慮なく笑っているところだ。でも机の隙間から漏れた音が成す意味に、今度は俺の心臓が跳ねた。座り込んで、ぼすっと背中に頭を預ける。

「源田あ、俺はいつも優しくしてんだろ?…ったく、ちっちぇことで喜びやがって…。てめえのそういうとこがかわいくねえんだよ。」

ぶつぶつ言いながらも、広い背に押しつけた頬はあつい。耳に響くせわしない心臓の音が心地よく思えて、身体ン中がむず痒くなる。後ろから腕を回して、抱き締める。すると突然勢いよく振り向いてくるから、源田の肘と俺の頭がぶつかった。んでここで肘鉄なんだよ!

「わかったぞ不動!変だと思ったらお前熱があるんだ!」
「だあああ!てめえがそんなだから俺は優しくできねえんだろ!」

(っとにかわいくねえ!)