たられば悲観者 「なあ不動。お前は別に俺じゃなくても…良かったんだろう。」 じっと眼を見る。それでも、その瞳の色がどんな感情を示しているのかは皆目検討もつかない。不動はいつものように静かな顔でくつろいでいる。 ベッドに寝転がる不動と、床に座っている俺。一体どちらが部屋の主なんだろうか。 ふっと脳裏に浮かぶのは、さらさらと揺れるカーテン。もし、あの時俺と佐久間の寝ているベッドが逆だったなら?この部屋でだらだらと過ごしていたのは…俺一人だったかもしれない。 胸の内にあるそんな確かめようのない"もしも"をそろそろと撫でて、沈黙に流れ薄れていくのをぼんやりと眺める。それを塞き止めるような返答は端から期待していない。 「ちょっと来い。」 それでも意外に返事があって、すっと見据えられたので大人しく傍に寄ってみた。最初は不動の些細な身動きにすら細心の注意を払って構えていたのに、今では警戒心なんてものはどこかにいってしまった。 俺達二人は、運命というような劇的な関係ではなく、きっとただの惰性で繋がっているんだろう。 そんなことをぼんやりぼんやり考える。 俺をじっと見るきつさのある大きな瞳が、あっという間に近づいてピントが合わなくなった。 「…っ!」 なにがなんだかわからない内にぐっと引き寄せられ、突然噛みつくように口付けられる。時々舌や唇を甘噛みされて、痛いのとこそばゆいのと気持ち良いのがごちゃごちゃになるような心地だ。俺の頭はこれをどう判断していいのか戸惑っているらしい。 ただ、不動の前に垂らされた髪の毛がふわふわとくすぐったい。そんな関係のないことを考えている内に、乱暴な唇は離れていった。 驚きと疑問が一瞬だけ飽和状態になって、束の間の放心状態。 「…不動?」 「佐久間とこんなこと出来るかよ、気持ちワリイ。」 そう言い捨てた不動は心底機嫌が悪そうで、俺はまた迂闊なことを言ったんだなと思う。 それでも心が温かくなるのは…不謹慎なんだろうか。 「今度言ったら噛み千切る。」 追い討ちをかけるように吐かれた言葉になんだかひどく安心して、少しだけ笑ってしまった。 |