「俺、サッカーに生まれてきたかったなあ。」 夢が叶わないことを悟った少年の口振りで、ヒロトはぽつりと言った。 諦めを孕んだ瞳はどこか心傷気味だ。 「サッカー?…サッカーそのものか?」 「そうだよ。サッカーというスポーツそのもの。」 相変わらず定規泣かせな発想。 サッカーは競技であってあくまでも生まれたいという願望の敵う概念ではない筈だ…と、思うが。それでも平然と「生まれたかった」と言われると、そんなことを指摘するのはお門違いな気がして。 将来はロボットになりたいという子供に、君は霊長類真猿亜目(以下略)なんだから、ロボットになることは出来ないんだと言うような人間にはなりたくないものだ。 「なんでサッカーになりたかったんだ?」 「サッカーに生まれてきたら、円堂君に愛して貰えたじゃないか。」 「そうだなあ…。」 宙ぶらりんな回答。ヒロトはいつも真剣だ。その真剣さから、時々疾風ダッシュで逃げ出したくなることがある。今がまさにそんな気分だ。 居たたまれない。二人しか居ないのに居たたまれないというのは、言い換えれば…気まずいってことだ。 それでも向こうが黙々と考え込んでしまえば、話は延々と停滞する。 「いや…でも、サッカーはみんなで作るものだろう。だから、ヒロトも円堂に愛されているって考えていいんじゃないか?」 「そうすると、俺は手始めとしてまず、9人に嫉妬しないといけなくなるね。そして、その他大勢のサッカー人口にも。」 「…それはまた、大がかりだな。」 「途方もないね。」 ―…はあ。 俺達はいつか着ぐるみの中身を見た時と同じ気持ちで、溜め息を吐いた。 ヒーローに なれないぼくら |