夜はこうして眠る | ナノ



「…っ染岡くん!」

突然物凄く大きな声で名前を呼ばれて、染岡は盛大に身体を震わせた。反射的にぱっと眼をあければ真っ暗闇が広がる。鼓動は痛いくらいに強く、有り得ない早さで脈打っている。全くもってなにが起こったのか把握出来ない。

「あ…、染岡くん…?」

戸惑い気味に名を呼ばれて、声の元を辿る。同じくらい驚いた顔をした吹雪が、こちらを見下ろしていた。視線が合えば、へたりと情けない顔をした。
染岡は自分が吹雪に起こされたのだと言うことを漸く知った。
まだ、身体は驚きの余韻で十分に混乱している。

「…んだよ。」

寝起きで掠れた喉は、声音をますます不機嫌な響きにさせる。

「そめおかくん…」

たどたどしく名を呼んで、吹雪は染岡の上に覆い被さった。そのままぎゅっと、抱き締める。布団越しに伝わる力の強さと温かさに、ますます混乱してしまう。

「そめおかくんが、いなくなっちゃう夢を見たよ。」

頬をすりすりと合わせて、吹雪は小さな子供のように言った。頬に添えられた指先は確かに震えていて、その夢が彼にとっていかにおそろしいものだったかを知る。
染岡は、ただただ静かに背を撫でる。

「なんか、よく覚えてないんだけど、染岡くんが居なくなっちゃって、僕は暗くて寒いところで一人ぼっちになっちゃうんだ。かなしくてさみしくて、染岡くんの名前をずっとずっと呼ぶ…そんな、夢を見たよ。」

しぼりだすような低い声によって紡がれた言葉は、染岡の身の内にしんしんと積もっていく。何か言葉をかけてやろうと口を開くが、何一つ出てきはしない。代わりに、もどかしさを吐き出すようにして小さく溜め息をついた。びくりと吹雪の身体が揺れる。

「…ごめんね。僕、いつまでたっても弱くて。」

言葉とは裏腹に、痛いくらいに力を込めて抱き締められる。

「別にいいんじゃねえの、そのままで。…嫌いじゃねえし。」

ただ、次は…昼間にやれよ。
欠伸を小さく溢して率直にそんなことを言うと、身体の上の吹雪がわずかに震えた。きっと笑ったのだろう。

「眠いね。」
「ん。」
「起こしてごめんね。」
「ん。」
「寝ようか。」
「ん。」
「…今度はぎゅって抱き締めて、寝てもいいかな?」
「…ん。」

やがて二人は穏やかな睡魔に包まれるだろう。



よくある真夜中