こんな小学生はいやだ | ナノ



細い腰に、まだ幼さの残る腕が後ろからぴったり巻きついている。飛鷹は先程から困った顔でどうしようかと思案していたが、とうとう口を開いた。

「…虎丸。そんなにくっついていたら、寝辛いんだが…。」
「ごめんなさい!やっぱり本当は迷惑でしたよね…。俺、やっぱ自分の部屋で寝てきます…。」

怖がらせないようになるべく控えめに言ったつもりだったが、虎丸はすぐにベッドから出ていこうとしてしまう。
一人用のベッドに二人というのは、いくら細身な中学生と小柄な小学生とはいえそもそもが物理的に寝辛い。だが、寂しいと言ってせっかく自分を頼ってくれた虎丸を追い出すのは、飛鷹の良心が許さないのだ。そのしょんぼりとした表情に慌てた。

「…!いや、いいんだ、大丈夫だからそんな顔するんじゃない。」
「わーい!飛鷹さんって本当に優しくて頼れる兄貴って感じですよね!」

思ったよりも素早く立ち直った虎丸に戸惑いはしたがほっとした。そして再び遠慮なく腰に回される腕。小さな身体にぎゅうぎゅうと抱き締められるのも、犬かなにかと添い寝していると思えば悪くはないように思えてくる。

「なんだかお前と居ると、鈴目達を思い出すな。」

日本に居た頃、サッカーを始めるよりも前。部屋に集まったまま帰ろうとしない鈴目達とは、雑魚寝するのが常であった。狭苦しくはあったが、寝相の悪い弟達に布団をかけなおしてやったりした事がなんだか懐かしく思えて、眼を細めた。
しかし、そんな回想も突然訪れたくすぐったさに掻き消された。

「…、虎丸っ、なにやってるんだ、」
「飛鷹さんってすっごく細いですよね…。ちゃんとご飯食べてますか?」

ウエストを確かめるように触られ、ぞわぞわとした感覚に身動ぎした。さわさわと身体を撫でる手を捕まえる。虎丸は「なんで掴むんですかあ?ちょっと触るのくらいいいじゃないですか!」と、不満げに言いながら飛鷹の手から逃れようと遠慮なく抵抗してくる。しばらく狭いベッドの中で小さな抗争が続いたが、小学生のわりに強い力で抵抗されてはさすがの飛鷹も疲れる。「いいか、手を離すが少しの間触るなよ。」と低い声で釘を刺せば虎丸も大人しく「はあい。」とふてくされて答えた。しぶしぶ手を離し、小さく呟く。

「俺は触られるのに慣れていないし、くすぐったいのが苦手なんだ…だからそうやってそわそわ触るのは、勘弁してくれ。」

言ってしまえば、なんだか身体中弱点をさらしているようで落ち着かない気分になってくる。もしもこれで虎丸が悪ノリに走ったら飛鷹はひとたまりもないだろう。少し緊張して虎丸の反応を待つ。

「へえ!確かに、なんか飛鷹さんてスキンシップ慣れてなさそうですよね。俺はよくお母さんに抱きついたりしますよ!あっ、そうだ!俺が今日から慣れるの手伝ってあげますよ!すごくいい考えかも!ねっ、いいですよね飛鷹さん!」

突然矢継ぎ早に捲し立てられ、気づいた時には思わず「あ、ああ…。」と、了承していた。それを聞いた虎丸は「やったー!飛鷹さんの役に立てる!」と無邪気に喜んでいる。
(天才サッカー少年とはいえ、まだまだ子供だな…。)
そんなことを考えながら、飛鷹は少し穏やかな笑みを浮かべた。

一方虎丸の心中はといえば。

(いよっしゃー!これからは飛鷹さんの身体に触りたい放題!鈴目さんって人達には悪いけど、この大会中に飛鷹さんには俺のことで頭いっぱいになって貰うぞー!)
そんな、子供らしからぬことを考えながら、華奢な飛鷹の抱き心地を堪能していた。



小学生万歳!



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言わずともがな101話にやられました。