「源田。言っとくけど俺はてめえのこと嫌いだからな。」 なあ、不動。じゃあ俺も言っておくが、ここはお前達二人だけの世界じゃない。 野暮な人達 三人でのんびりテレビを見ていると、突然口を開いた不動。テレビでは数ヶ月前に流行ったファミリー向け映画がやっているが、今はそんな言葉が飛び出すシーンじゃなかった筈だ。どうして映画が終わるまで待てないんだ…と、内心でこっそり深い溜め息をつく。 俺は映画を見ている時に、関係ない話をする奴があまり好きじゃない。許せるのは一緒に笑ったりあくまで内容について言葉を交わす程度。だが、どこまでも自分中心な不動にはそういう鑑賞中のマナーは皆無だ。そして、基本的におおらかな源田は元々細かいことを気にしない。(だが不動寄り人員だ。) つまり多数決ではどうせ俺の主張は却下だろう。と、脳内投票だけで諦めて、画面をまっすぐに見て隣の会話をやり過ごすことを試みる。こんな時のこいつらには是非とも関わり合いになりたくない。THE 現代日本人なんだ、仕方がないだろう。 「そうか…。だが、俺は不動のこと好きだぞ。」 突然嫌いだと言われても源田に憤慨するような気配はなく、恥ずかしげもなくそんなことを言う。好きだぞ。…って、だろうな。同学年男子にそんなソファみたいにどっかりもたれかかられて毛ほども嫌がってないときた。 これが今、テレビの中で感動的なシーンを演じている女優なんかだったら、まだ許せる。だが相手は男の中でも、むしろ人間の中でも特別かわいげの無い不動だ。どうでもいいけどモヒカンだし。俺だったら即突き飛ばす。 「ったりめーだろんなもん。好きじゃねえとかぬかしやがったらブッ潰す。」 しかも自分は嫌いだとか言っといて源田には好きしか許さないんだと!どこまで傲慢なんだこいつは…。 大事な仲間があまりにも無下に扱われているもんだからうっかり横目で様子を伺ってしまった。しかし源田の横顔はとても穏やかな笑顔。源田…お前って奴は寛容なのか馬鹿なのかそれともその両方なのか? 「…源田、お前それでいいのか?」 気が付いたら疑問が口から漏れていた。源田はなんのことかいまいち分かっていないらしく、「…?」とこちらを見てくる。そんなはてなマーク浮かべてきょとんとした仕草、図体のでかいお前がやったってかわいくないぞ。 …かわいい筈、ないんだけどなあ。 「佐久間てめえ気安く俺のモンに話しかけてんじゃねえ。」 だが、そんな姿に和む間すらない。不動が不機嫌そうにガン飛ばしてきたので、今度は隠さずに溜め息をついた。 「お前…。…いや、お前らはこれでいいんだな、もう好きにやってくれ…。」 本当は文句のひとつでも言ってやろうと思って口を開いたんだが、やめた。別に不動に噛みつかれるのが面倒で丸投げしたわけではない。 …ただ、所有物宣言された時の源田が、とてもしあわせそうだったから。細かいことは良いかと思えただけだ。源田に免じて不動のことも許してやろう。 映画はちょうどクライマックスにさしかかっている。画面いっぱいにうつる女優を見てやっぱりかわいいなと思いつつも、なんとなくさっきの源田の笑顔を思い出してしまうのだった。 (なんだかんだ言ったって、俺はこいつら二人の組み合わせを案外悪くないと思っているんだ。) ―― 佐久間さんは源田に対して家族愛のようなものを抱いています。幸次郎抜けてるし俺がなんとかしてやらなくちゃな!みたいな。 不動のことは正直モヒカンだと思っているが源田がしあわせならいいか、という考え。 |