真っ白な世界に、私はぽつりと佇んでいた。どこまでも満遍なく、白。 世界の調和を乱しているのはただ一人。つまり、白以外の色味である…この私だ。 足元をじっと見てみる。その陰影はくっきりと眩しいくらいに浮かんでいて、思わずうすらと眼を細めた。肌の色も気に入りの髪の色さえも、ここではただの異端分子でしかないのだ。白とはかくも恐ろしく凶悪な色だったろうか。世界はその全体でもって私を排除しようとしている。 この美しい世界にとって、私は招かれざる客であった。 そっと静かに眼を閉じる。 世界は忽ち黒く塗り潰された。 白いマグカップ。白い液体。白い湯気。 いつも通りの朝食。 「晴矢。君は夢を覚えているかい?」 「夜見る方のヤツか?」 「ああ。」 「全然覚えてねえ。」 「君らしいことだ。本当は、覚えていなくても人というのは1日に最低でも10本は夢を見るそうだよ。」 「じゃあ、そういうお前は今朝見た夢、覚えてんのかよ。」 「ほんの少しだけ。美しくて、どこか悲しい夢だった。」 「あ、そ。」 晴矢は至極興味の無さそうに言った。表面通り、きっとつまらないのだろう。彼はこういう話が苦手だから。 紅い髪がさらさらと揺れる。本人に似て血色の良い毛髪は、部屋の灯りをぴんぴんと跳ね返していた。本当に元気なことだ。 その溌剌とした様子を見ている内に、またぼんやりと夢のことが思い出される。 「ああ…そうだ。君はずっと居られたかもしれない。」 「あ?」 「だって君は…、美しいから。」 「…はあ?」 怪訝そうな晴矢を見ながら、私は一人・夢見心地で眼を細めた。 白い世界はきっと、彼とつがいたかったのだ。 愛妻家のゆめ |