眼が溶けてしまうんじゃないかと思うくらい、あつい。頭はボールが当たった時のようにがんがんするし、喉はひっつきそうな程干からびて唇からはひっきりなしに嗚咽が漏れる。 そんな、みっともない俺の頭をやさしく撫でてくれるのは、大好きなだいすきな、手。 出会ってから3年と6ヶ月。 無理やり蓋をして閉じ込めていた心はついに溢れて血を流し始めた。そうなると日々は重く鉛のように過ぎていく。いよいよ限界に感じた俺はある日とうとう胸の内を円堂君に伝えてしまった。最初はいつもみたいに「俺もだぞ!」と言って返してくれた。でも違うんだ…もうそんな気休めじゃ俺の心は慰められない。 君と俺の好きは違う。 その意味を理解して貰うのはとても時間がかかった。きっと理解も共感も出来ないだろう俺の想い。それでも円堂君はただじっと静かに話を聞いてくれた。 「そっか。」 それが最初の返事。長いながい時の末、ようやく意味を嚥下してくれた円堂君は、難しい顔をふっと緩めて微笑んだ。 「…ありがとう、ヒロト。俺をそんなに好きになってくれて、ありがとう。」 その笑顔のうつしいこと。いっそ気持ちが悪いとなじってくれたらどんなに良かっただろうか。 俺はとうとう吐き出してしまったけれど円堂君は変わらずに笑ってくれた。もしくは、変わらないように笑ってくれたんだ。同性に抱くべきではない想いを聞いても、微笑んでくれた。 くるしくて、何かがかなしい。でも、どこかで安心した。 俺はいつまで円堂君を好きでいればいいのか。想いはどこまでも途方が無くて、諦めたくても諦められなくて、ずっとずっと好きで…それが怖かった。 叶うなんて思っていなかったし、伝えようとも思っていなかったから、尚更終わりの見えないこの想いが怖かった。 だから彼の笑顔を見た時。肩の荷がすっと降りたような、そんな気持ちがした。 ああ、俺は今心の底からほっとしたんだ。そう自覚した途端に、涙がぼろぼろ出てきた。こんな情けない姿は見せたくなかったし、もうこれ以上困らせたくなかったのにすべてがままならない。涙の海に飲み込まれていく。 感情を持て余して怯えている俺の背を、ふいにゆっくりゆっくりと。 優しく撫でてくれる、手。 「…っ、ご、め、…ごめ、なさ、っ、ごめ、」 「ヒロト、ヒロト。大丈夫だぞ。泣きたい時はいっぱい泣いていいんだ。謝らなくてもいいんだ。ヒロト、ありがとう。俺を好きになってくれてありがとう。お前が想ってくれた分まで俺絶っ対すげー良い人生送るから。だから、ありがとう。」 その声音と同じように、あまりにも優しい眼で見てくれるから涙は全然止まりそうにない。 好き、好きだよ円堂君。 俺の為にそうやって心を痛めてくれる君が。 それを笑顔で隠してくれる君が。 決して「ごめん」とは言わない君が。 その、大きくてあたたかな手のひらが。 好きなんだ。 いつでもまっすぐな君が、俺はね。 「…っ、え、んど、く、」 「うん…?」 「―…ありが、とう。」 恋は成就した。 |