困ったことになった。それはもう物凄く。 不動が、口を利いてくれなくなってしまった。 さっきまで楽しく会話していたというのに、気がついた時にはもうすでにその唇はだんまりを決め込んでいたのだ。きっと何か機嫌を損ねるようなことをしたのだろう。だが心当たりはまったくない。いや、あることにはあったんだが…それも先程すべて試してしまった。それでも不動は一向に口を利いてはくれない。 こんなことならいつものように悪態をついてくれた方がマシだとすら思えてくる。 今まで俺は喧嘩というものをしたことがないから、どのように対処したらいいのか皆目検討もつかない。そもそも、これが喧嘩というのかどうかも分からないが、それでも目の前の不動は不機嫌そうだ。だから大きな分類で言えばやっぱりこれは喧嘩なんだろう。 「不動…」 試しにその名前を呼んでみるがもちろん返事はない。こんなに傍にいるのに、とても遠くに居るようだ。数分前、数十分前の自分を恨むと同時に羨んだ。お前は不動と会話出来ていたのに、とんだ失態をおかしたもんだ。だが今さら悔やんでも仕方がない。 こまった。 俺は迷子になった子供のように、どこまでも不安になって落ち込んだ。 不動、不動。 頼むから返事をしてくれ。 |