眩しさが退いたと思ったら、俺は椅子に座っていた。気がつけば目の前の大きな食卓の上には彼が静かに横たわっていて、その身体からそれはそれはもう鼻先から蕩けてしまいそうなくらい甘い香りがする。 堪らなくなってスプーンで恐る恐るすくってみると、とてもふわふわしている。どうやら彼の身体はフロマージュのようなもので出来ているらしかった。口にそっと運ぶととても上品な甘さが濃厚に舌とまぐわって、これが人間かと思うくらいおいしいんだ。実際俺はわざとらしく芝居がかって、『これが人間かしら』とこぼしてみたものだ。 一度口にしてしまうともう止まらない。俺は、大好きな彼の身体ひとつひとつをぺろりぺろりと平らげていった。愛でても良し、食べても良しだなんて彼は本当に完全だ。俺は普段から彼を食べてしまいたいほどに愛していたし、実際に残さず食べようと思った。 それでも順々に食べていくと、やがてスプーンを持つ右手が躊躇いを見せた。何故だかわかるかい? ―…足だよ、足。 彼の足。それは、彼の中のサッカーそのものである気がしたんだ。足を食べてしまえば、彼はもう二度とサッカーが出来なくなってしまう。でも相変わらず彼からは甘い香りがしていて、俺を絶えず誘惑してくるんだ。どうしたものかともたもた迷っていると…、詮ないかな、ふっと目が覚めてしまった。 甘い甘い彼のことを思い出しても、食べ残してしまった後悔は不思議と感じない。それどころか、胸の中にはほんのわずかな安堵感すらあった。そしてその安堵感は、俺を潔い諦めへと導いてくれたのだった。 夢の話をしよう |