非日常な二人の日常 | ナノ


! 学生な二人が同棲(?)している超次元




ごうんごうんごうん、という鈍くて頭の悪そうな音と、
ぱちゃぱちゃ、とかじょろじょろ、だとかいった水音。
涼野と南雲の家政婦ともいうべき洗濯機は今日もそんな音を立てて家事に励んでいる。
それはいつものことだったが、南雲は小さな疑問符を浮かべて脱衣場へと向かった。聞こえてくる水音が、あまりにも鮮明だったのである。
漏ってんのか?とうとうガタがきたか、となかば諦めにも似た予感を抱きつつ見てみれば、ガタがきているのはまったく違うものだった。しかしこちらに対しても南雲は諦めを抱いている。

「お前…、洗濯機はフタを閉めて使うって知らねえんだっけか。」
「いいや、我々の衣服が洗濯されているところをきちんと観測しているんだ。よろこべ南雲、私が見ている限りにおいて洗濯は確実に遂行されているぞ。」

相変わらずまったくとんちんかんな会話だ。会話という言葉を当てていいのかすら疑わしい。
ほとんど押し付け気味によろこべと言われて、素直によろこびが込み上げてくるほど南雲の精神構造は容易ではない。
洗濯物と水の生み出す渦をただただ見つめる行為をどうやら立派だと思っているらしい涼野に対して、南雲はどう会話をつなげたらいいのか分からなかった。まあ結論から言えば、繋げようがなかった。
どーぞお気のすむまま、と心の中で恭しく投げかけて、漫画の続きを読みに戻ることにする。が、呼び声にその予定はあっさり阻止された。

「…んだよ。」
「具合が悪くなってきた。吐きそうだ。」

当たり前だろという言葉を慣習または親切心か、もしかしたら愛情でもってして飲み込んだ。当たり前、というのはそれが通じる相手にしか使ってはいけないのだと、ここ数年の生活の中で身を持って知っていたからだ。

「吐くなよ。つうか、もう眼え閉じてろ。洗濯されてるかどうかなんて音でも分かるだろ。」
「それは否だ。そして現実から眼を逸らすのは愚かしいことだ。」
「洗濯酔いして吐くのとどっちが?」
「現実を直視し続けた結果ならば、私はそれを甘んじて受け入れよう。」

涼野が吐き気に苛まれているのなら、自分は頭痛に苦しんでいる。南雲は端的にそう思った。
涼野との間で進められている会話らしきものにおいて、互いの前提とする事柄が違うような気すらしてくる。
しかしなによりも頭が痛いのは、このようなちぐはぐなやりとりがすでに何度も繰り返されていることであり、それに対して慣れのようなものを自身が抱いているということだった。

「風介クンよお。」
「なんだい晴矢君。私は今こうしている間にも吐きそうなんだが。」
「せめて洗濯機の中に吐くのは止めてくれ。」
「よし分かった善処しよう。」


その二人の生活は
親切心
あるいは