! シリアス ! 最低一之瀬 ―― 夕日を全身に浴びながら、一之瀬一也が土門飛鳥に再手術の話をした時、土門飛鳥は自身の喉がきれいぴったり張り付いて閉じてしまったような錯覚に陥った。 「サッカーができなく、なる…。」 息苦しさの中で、言われた言葉をもう一度絞り出すように呟く。その様子を見て、一之瀬は自身の抱える問題がやはり深刻であるということを、どこか他人事のように改めて認識した。 「嫌だなあ、そんな絶望的な顔しないでくれよ、土門。」 空気の重量に居たたまれなくなり、少しだけ笑ってみせる。しかし、うまく笑えてはいないだろう。 「でもよ、要は成功すりゃあいいんだろ。な、」 土門のすがるような瞳と悲痛な表情は、心の奥底で一之瀬が浮かべているそれかもしれない。 「成功の確率はフィフティフィフティだってさ。」 そんな、コイントスのような確率で目の前の人間の命が揺らいでいる。事実は土門のその華奢な両肩に背負うにはあまりにも重たかった。夕日はゆっくりと、しかし確実に沈んでいき、じわじわと闇が侵食し始めている。 「あの事故さえ、なければな…。」 ぽつり。なかば無意識に呟いてから、それが一之瀬にとってどうしようもなく酷な発言であると、遅れて気がついた。 (俺は一之瀬を苦しませるようなことを…。) 土門の表情はこの世の終わりを目の当たりにしたかのような、そんな表情だった。これではどちらが手術を受けるのかわからない。 そんな風に苦悩する土門の姿を見て、一之瀬の中にある思いが生まれた。それは、決して美しい想いではなかった。 「でも、いいんだ。犬を助けられたんだし。あそこで動けなかったら、それはそれで一生後悔したと思うしさ。それに、もしあの時犬が助からなかったら、土門だって目の前で小さな命を見殺しにしたこと、一生後悔しただろ?」 「…っ、そ、れは、そうだけど…でもよ、だからって…。」 土門の口からこぼれそうになるのは、今更言っても仕方のないことばかりだ。いっそのこと俺が…。絶対に言ってはいけない言葉を何度も嘔吐しそうになり、そのたびに嚥下した。 「なーんてね。あの時は身体が勝手に動いてただけ。ごめんちょっとかっこつけてみた。」 はは、と笑ってみせるが一之瀬の心中は土門への醜い執着心とそれを責める冷ややかな理性とがせめぎあっていた。 わざと、ずるい言い方をした。土門が傷つくような。それが土門を自身に縛り付けておくための打算であることを、一之瀬は十分過ぎるほどに理解していた。しかし、そんな想いを土門が知る由もない。 「一之瀬…。なんか俺にできることがあれば、なんでも言ってくれ。俺は、少しでもお前の力になりたい。」 懇願するように献身的なことを言ってくる。その純粋な姿を見て、一之瀬の心は少しばかり痛んだ。だが、痛みはその後すぐに打ち寄せてきた歪んだ幸福感によって、跡形もなく消えていった。 もう闇が空間を支配している。 暗い幸福 ―― ユニコン戦はみんなが きらきらしてて本当に 素敵でした。そのわりに 黒之瀬ですみません。 これシリーズ化したら 土門にひどいこと いっぱいできるな…。 |