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基山ヒロトと南雲晴矢



「朝見た夢を儚く忘れてしまうように、俺は晴矢のことをきっと忘れてしまうよ。」

ヒロトは静かに唇を閉じた。視線は大きな鍋をじっと見つめて、時折中身をかき混ぜたりなんかして様子をうかがっている。
あたたかい蒸気が部屋を包み、外の寒さなどは失念してしまうほどだ。それでもしっかりと着こんだ晴矢はたっぷりとしたマフラーを固く結び、やれやれと溜め息をついた。
ヒロトが面倒見ている鍋からはとても食欲のそそる香りが立ち込めている。なにを作っているかは…晴矢にとってはどうでも良いことだった。

「俺が晴矢を忘れないように、そして忘れない内に、気をつけて行っておいで。」
「…お前が行ってきてもいいんだぜ。」
「そんな恐ろしいこと。」

ヒロトは大袈裟に笑った。目配せしたのは白いタイルに目立つ真新しい焦げあと。それを見るなり晴矢はバツが悪そうに咳払いして、玄関へと向かった。

「いってらっしゃい。」

背中で声を聞いてから、靴紐を結ぶ。一言ぽつり。

「ったく、たかが買い出しでよお…。」

晴矢には何に使うのか分からない食材のメモがきちんとポケットに入っていることを確認してから、外気を思わせる冷たいドアノブを握った。