「山姥切国広。そこで何をしている」




別に俺が悪い事をしたわけではない。だが、俺の体は、何か悪巧みが暴露(ばれ)たような反応をみせた。そのせいなのか、はたまた聞こえてきた声にか…主が息を呑む。

偵察能力も隠蔽能力もどちらも声の主ーー長谷部よりも高いはずなのに、部屋に近づく長谷部のこの冷たい気配に気付けなかったのか。





「貴様は任された仕事も禄に出来無いのか」




背を向けた状態は危険だろう…なんて、仲間に思う日が来ようとは。

主を背に隠すようにしたいのだが、主の手は一向に離れない。恐怖で冷静さに欠けているのだろう。俺が少し身じろぐと、内番服を掴んでいた手が、さらにギュッと強まる。

先程すぐに納刀したのは間違いだったか…

……これも、本来ならば仲間に思うことでは無いな。





「長谷部、お前こそ、これはどういうことだ…主に何を…」

「俺は俺の仕事を全うしたまでだ。主の《世話》は全て行った」




態とらしく強調された言葉に含まれた意味がわからない訳ではない。


ただ、理解したくはなかった。





「刀が…仮初めで得た人間の器で、それを与えた主に…」

「まぁいい、主を返してもらおうか」

「何?」




反射的に長谷部の言葉に顔を顰める。




「返すも何も、主はものでは無い。ましてや、誰か個人のものでも」

「……貴様がそれを言うのか?」




苦虫を噛み潰したような苦悶の表情を浮かべる長谷部。




「どういう意味だ?」


「……主を《主》でなくさせられる…


ただの一人の女に足らしめる、お前が!


…お前が…


お前さえ…いなければ…!」



ギラついた眼とあった瞬間…



「圧し切ってやる…!」



明らかな敵意をもって、長谷部は抜刀した。





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