弐
厩に行くと既に鯰尾と骨喰が掃除を行っていた。
出陣で馬たちが出払った厩は静かなもので、掃除をするには丁度良いだろう。
俺に気付いた鯰尾が手を振ってきた。とりあえず、その手に馬糞が無いことを確認してから近づく。
「長谷部さんが出陣するのって、久し振りですよね」
「確かにそうだな」
長谷部は基本、近侍の仕事を中心に行っている。
外に出るよりも、本丸内にいることが多い。仕事が忙しいために本丸を離れられない…ということもあるが、長谷部本人が本丸から離れたがら無いように見える。
長谷部が外に出る機会は、ごく稀に出陣に参加するくらいだ。
「じゃあ、今がチャンスですね!」
「ちゃんす?」
「好機…という意味だそうだ」
「好機…何の好機なんだ、鯰尾」
「何って、そりゃぁもちろん!
主さんに会いに行くチャンスですよ!」
嬉しそうに言う鯰尾だったが、次の瞬間には、どこか気落ちしているような表情を浮かべた。
「俺、本当のことが知りたいんです…
どうして執務室から出てこなくなってしまったのか」
「……」
「もしかして病なんじゃないかって。俺達に心配させまいと出てこないのかって…それならむしろ薬研に、もしくは政府に治してもらいたいから、出てきて欲しくて…」
「……主は、俺達のこと、嫌いになったのだろうか」
「っだから!それは無いって言ってるだろ骨喰!」
「だが兄弟…」
「嫌いになんかならない、なれないって言ったんだ。だからそれはあり得ない。そうですよね、山姥切さん!」
「だが、長谷部は主第一だから、病ならば報告するはずだ。だから病という線もあり得ない。そうだろう、山姥切?」
二人が言いたいことはわかる。
確かに、どちらの理由にも《あり得ない》と言えるが…本当の理由はわからない。
「でもやっぱりおかしいと思うんですよね。
山姥切さんに何も伝えないなんて…」
「それは俺が…」
「ああ。何かしらの理由があるのなら、主なら山姥切に伝えているはずだ」
「ってことで、ちょっとだけ、覗いてきてくださいって!」
「…は?」
俺の言葉を遮って飛び出してきた提案に、二の句が告げなくなる。
さっきの流れからして、お前たちが会いに行くというものじゃないのか。
俺の考えを察したのか、骨喰が口を開いた。
「俺達が行くよりも、いいと思う」
「そうですよ!なんたって、まんばさんは主自慢の初期刀なんですから!」
そう言って、俺の体を厩から本丸の方へ反転させると、揃って俺の背中を押し始めた。
「ほら早く、早く!」
「あまりグズグズは出来無い。第一部隊もすぐに帰ってくる」
滅多に本丸を離れない長谷部が出陣する場合、高難易度の合戦場に赴かないからか、自身の機動能力の高さ故かは定かでは無いが、早々に帰城してくる。
二人がせっつく理由はそのためだとわかってはいるのだが…
「っ、わかった、わかったから押すな!」
こいつら、初めからそのつもりだったんじゃないか?
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