厩に行くと既に鯰尾と骨喰が掃除を行っていた。

出陣で馬たちが出払った厩は静かなもので、掃除をするには丁度良いだろう。


俺に気付いた鯰尾が手を振ってきた。とりあえず、その手に馬糞が無いことを確認してから近づく。




「長谷部さんが出陣するのって、久し振りですよね」

「確かにそうだな」




長谷部は基本、近侍の仕事を中心に行っている。


外に出るよりも、本丸内にいることが多い。仕事が忙しいために本丸を離れられない…ということもあるが、長谷部本人が本丸から離れたがら無いように見える。


長谷部が外に出る機会は、ごく稀に出陣に参加するくらいだ。




「じゃあ、今がチャンスですね!」

「ちゃんす?」

「好機…という意味だそうだ」

「好機…何の好機なんだ、鯰尾」

「何って、そりゃぁもちろん!


主さんに会いに行くチャンスですよ!」




嬉しそうに言う鯰尾だったが、次の瞬間には、どこか気落ちしているような表情を浮かべた。




「俺、本当のことが知りたいんです…

どうして執務室から出てこなくなってしまったのか」

「……」

「もしかして病なんじゃないかって。俺達に心配させまいと出てこないのかって…それならむしろ薬研に、もしくは政府に治してもらいたいから、出てきて欲しくて…」

「……主は、俺達のこと、嫌いになったのだろうか」

「っだから!それは無いって言ってるだろ骨喰!」

「だが兄弟…」

「嫌いになんかならない、なれないって言ったんだ。だからそれはあり得ない。そうですよね、山姥切さん!」

「だが、長谷部は主第一だから、病ならば報告するはずだ。だから病という線もあり得ない。そうだろう、山姥切?」



二人が言いたいことはわかる。

確かに、どちらの理由にも《あり得ない》と言えるが…本当の理由はわからない。




「でもやっぱりおかしいと思うんですよね。

山姥切さんに何も伝えないなんて…」

「それは俺が…」

「ああ。何かしらの理由があるのなら、主なら山姥切に伝えているはずだ」

「ってことで、ちょっとだけ、覗いてきてくださいって!」

「…は?」



俺の言葉を遮って飛び出してきた提案に、二の句が告げなくなる。

さっきの流れからして、お前たちが会いに行くというものじゃないのか。


俺の考えを察したのか、骨喰が口を開いた。




「俺達が行くよりも、いいと思う」

「そうですよ!なんたって、まんばさんは主自慢の初期刀なんですから!」



そう言って、俺の体を厩から本丸の方へ反転させると、揃って俺の背中を押し始めた。



「ほら早く、早く!」

「あまりグズグズは出来無い。第一部隊もすぐに帰ってくる」



滅多に本丸を離れない長谷部が出陣する場合、高難易度の合戦場に赴かないからか、自身の機動能力の高さ故かは定かでは無いが、早々に帰城してくる。

二人がせっつく理由はそのためだとわかってはいるのだが…



「っ、わかった、わかったから押すな!」



こいつら、初めからそのつもりだったんじゃないか?





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