無邪気に恋する君
世の中には、ここまで感情が駄々漏れする人間がいるとは、思いもしませんでした。
無邪気に恋する君
「「サクラ(ちゃん)の隣、サクラ(ちゃん)の隣サクラ(ちゃん)の隣……」」
「サクラの隣…」
「……」
僕の後ろの席で、教卓でせっせとカカシ先生の作るくじを凝視しながら、意中の相手の名前を念仏紛いにブツブツと欲望ととして唱えている金髪二人と、ボソッと呟いたIQ200が一人。
4限のHR前の休み時間。
「そんなにサクラの隣がいいんですか?」
「「当たり前!!!」」
即座に返ってきた言葉にため息をつくと、先程まで読んでいた本に視線を戻した。
たかが席替えにそこまでしなくても……
他のクラスは、日直が一周したら席替えするのに対し、このクラスは基本、次の試験まで席替えをしないという方法をとっていた。
(毎回座席表を制作するのを、担任がめんどくさがって)
そのため、意中の相手の隣の席になるチャンスは、5回しかない。
先生に席替え回数を増やして貰えるよう直談判でもしたらいいんじゃないだろうか?
まあ、あの担任のことだから軽くかわすのは目に見えてるか……
「いのとナルトは何してるの?」
「サクラ…」
思いふけっていた僕を現実に引き戻したのは、さっき話しの中心人物にされていた彼女だった。
親友と喋りたくて来たものの、あの様子を遠目から見て気圧されてきたみたいだ。
まあたしかに怪しい二人だが、その前に……
「サクラ、一つ確認なんですが…」
「なに?」
「…あの二人が何を言っているのかわかりませんか?」
僕の質問に目をぱちくりした後、あの二人に耳をそばだて始めたサクラだったが……
「ごめん。わかんない…」
本当にわからないんですか?耳鼻科に行くべきですよ。と言いたかったが、すぐに飲み込んだ。
二人の声は、先程よりもさらに小さくなり、呪詛のようになっていた。
「…そうですね。最早僕にもわかりません」
「でも気になr「気にしたら負けだよ」
もうこの話は終わりと言わんばかりにサクラを見つめれば、渋々ながらも理解してくれたみたいだ。
「ねぇ、サイは誰の隣の席がいい?」
「君みたいに煩くなくて、ブスじゃなかったら誰でも…」
「殴られたい?」
「そんなことしたら、机が壊れるよ?」
「サイ!!!」
とんできた右フックを、椅子の背もたれに重心をずらしてかわす。
本当に容赦ない……
「サクラはどうなんです?やっぱり、サスケくんの隣ですか?」
「……かな?」
かなり前にいるサスケの頬がうっすら赤くなったのをサイは見逃さなかった。
サクラと違って耳がいいのか…
いや、サクラに関することだけに、サスケの五感は冴え渡るのだろう
「でも、もし隣になったらよろしくね」
「………」
柄にもなく、言葉につまってしまった。
あまりにその笑顔が可愛くて……
なのにその笑顔は、僕に向けられたはずなのに、僕じゃない誰かに向けられたものに見えて……
彼女の目の前にいるのに、僕を見ていない……そう思う自分を不思議に思った。
感じたことのない感情の名前は、知るはずもなかった。
そこから始まる恋の予感
(なんで胸が苦しいんだろう……?)
End
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