睡魔が襲う5時間目
また、あの頃みたいに
全てのものから色が見えなくなったのだろうか…
*******
「…だからこの時の『けり』は、過去じゃなくて、詠嘆。つまり…」
今日最後の授業は古典。
もちろん、キライな教科ではない。むしろ好き。
古典は不思議。
一つの文に二つの意味があったり、隠された意味を持っていたりする。
それが古典の魅力じゃないかしら。
だけど…
「ふぁっ…」
眠い……久しぶりに行った屋上は、気持ちよかった。
暖かな太陽の日差しに、頬を撫でる風。ゆったりと流れる雲。
何も考えずに、ただ眺めていたかっただけだったのに……
気付けば爆睡。
なのにまだ眠い。
あなたがいない今が夢ならば、早くさめればいいのに…
「…」
あたしは腕を組んで頭をうずめると、そのまま目を閉じた。
だから、先生の呆れたような声には耳を傾けなかったし、あたしを見るナツの目が、寂しそうだったことに気づくこともできなかった。
「ん…」
身体を揺すられて目が覚めた。
さっきと違うのは、夢すらみないほどかなり深い眠りだったということ。
それと、
「起きたか、お姫様?」
「…うん」
あたしを起こしたのが、グレイだということ。
「ったく、放課後になるまで寝てるなよな」
「知らないわよ。誰も起こしてくれなかったんだから」
「ルーシィの寝起きの悪さのせいじゃねーのか?」
「そこまで悪くないわよ!!」
「へいへい」
今日初めての会話が寝起きについてって…
言ってやりたいことがイロイロあったはずなのに、なかなか言葉にならないのは、まだ起きたばかりだから?
「ほら、サッサと帰らねえと……ルーシィ?」
「ふぇ!?」
「ククッ……なんだよ、寝ぼけてんのか?何なら目覚めのキスでもしてやろーか?」
「……」
キスという言葉におもわず反応する。
まだクツクツと笑ってるグレイから、本気で言ってないということがひしひしと伝わってきた。胸がギュッと鳴った気がした。
「……て…」
「ルーシィ…?」
「…キス、してよ」
「ッ!?」
あたしは立ち上がると、グレイの目の前にきた。
目を見開くグレイに、困ってるんだろうな…と他人事のように思う。だって、あたしとグレイは、生徒と先生だから……
「ふざけたこと言って、オレをからかってんのか?」
「からかってない。だって、あたしは
グレイが好きだから」
「っ、」
「でも、わかってる。グレイは、先生は、あたしのこと好きでもなんでもな…キャッ!…んんっ!」
好きでもなんでもないことぐらい、わかってる。
言おうとした言葉ば、グレイによって塞がれた。
「ふっ、…何がわかってるって?」
「ん…ハァ……グレイの、気持ち…」
「へぇ、そいつは驚きだな。…で、さっきは何て言おうとしたんだ?」
「その…グレイはあたしのこと好きじゃない…って」
「見当違いもいいとこだな。先生は悲しいぞー。お前がそんな間違いをするなんて。だから…
二度と間違えないよーに先生が教えてやんよ」
お前の身体によ…
耳元で囁かれる言葉も、
優しい眼差しも、
唇に感じる感触も、
どれも夢みたい。けれど、全てにあたたかさがあって…
あたしは現実のなかで、夢みたいなあたたかさに溺れた
睡魔が襲う5時間目
お姫様の眠りを覚ますのは、王子様の皮を被ったキス魔でした
END
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