退屈な2時間目





自分が今いるこの空間は『教室』


とは言っても、いつもの『教室』じゃない


もちろんそれは、学校が違うという理由もある


だが、オレにとって一番の理由は…──











*******




「グレイ先生、大丈夫ですか?」

「っ、あ、はい…」




隣にいた先生に肘を突かれたことにより、現実感を取り戻した。
本当ならオレは今、教鞭を執っているのだが、その逆にいる。


先生になっても勉強か……



「あの、グレイ先生はどうして教師になったんですか?」

「え?」



先程と同様に、肘を突いてきた先生。オレと同じで、大学卒業後すぐ教壇に立った新米の女教師だ。
…てか、あんた顔赤くなってっけど、大丈夫か?



「教えて下さいよ」



熱っぽい声に、この部屋暑いか?と考えたがやめた。



「オレなんかの話し聞いても、つまんないと思いますけど…」

「向こうで長々話してるあの人の話しより、断然楽しいと思います」



教壇で話しをしているのは、この学校の古株……いわば、ベテラン教師なのだが、話しが長い。学生時代、校長先生の話しだとか長くて嫌だった記憶があるが、それよりも長い。
というより、学生時代のオレは何故、あの程度の長さの話しに耐えられなかったのかと疑問に思うほどだ。

まあ、あの様子だと、こんな教室の隅で小声で会話してもばれないだろうな…



「…すっげえ不純な理由だと思いますよ?」



苦笑混じり問えば、それでもいいと何度も首を縦に振られた。その姿にアイツがダブり、思わず吹いてしまった。



「ただ一言『教えるのが上手い』って言われたからなんです」

「それだけ…?」

「あと、『カッコイイ』とも」






『グレイみたいなカッコイイ先生がいたら、あたしも退屈じゃなくなるし、毎日学校に行きたくなるのにな』

『不純だな』

『学校に行く理由としては十分だと思うけど』





そう言った彼女の目はいたって真剣だった。
退屈なことは確かに嫌いだ。でもそれは、家にいたって変わらない。なら……






『オレが先生なら、学校に行くんだな』

『えっ…』

『そうすれば、退屈じゃなくなるんだろ?』





あの時のはにかんだ笑顔が忘れられなくて、また見たくて…
必死で教員免許を取ったオレは、本当に『不純だな』



教室を眺めて見ても、金糸の君は、ここにはいない……


そのことが妙に腑に落ちなくて、ため息をついた。



退屈な2時間目
たとえ君のことを考えても、ここに君がいないから



End

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