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私はたった今、そのことに気付いてしまったのだ。
キョトンとしているラリーに、恐る恐る口を開く。
「……?」
『その…ごめんなさい。わかり、ません……』
「えっ!?わからない!!変な奴だなー。自分の名前だよ?」
そう。自分の名前がわからないなんて、相当おかしな人だと私も思う。
しかし、現に私が今、そのおかしな人なのだ。
自分の名前……それは誰もが知っているはずのもの。知っていないとならないものなのに、私の中からスコンと抜け落ちてしまったよう。
「……!もしかしたら、記憶喪失!?た、大変だ!どうしよう……何か手がかりでもあれば…」
私以上に焦るラリーに対して、申し訳なくなる。
見ず知らずの人間が倒れていたのを心配したり、ケガの有無を気にしたり…この子はかなり優しい子だ。
「……あっ!?君が持ってるそれって、もしかして、デュエルディスク!?」
唐突に指差された左腕を上げて見る。
存在感を放つ機械…デュエルディスクと呼ばれたそれ。
初めて見るはずのものなのに、ここにあるのが当然のようで…私はこれがどういったものなのか、知っている。
「君、デュエリストなんだね。デュエリストだったら、デュエルをすれば何か思い出すかもしれない!」
『……デュエル』
「俺とデュエルしてみない?
あっ!俺、デッキ持ってないや。
デッキを取ってくるからこの辺で、ちょっと待ってて。すぐに戻るから!」
そう一気に捲し立てると、ラリーは止める暇も無く、行ってしまった。
失った記憶。
そう簡単に取り戻せるものなのだろうか?
そもそも、何故記憶を失ったのか。
何か忘れたいほどの辛い記憶でもあったのだろうか?
それとも偶々転んで打ち所が悪かったとか?
こんな空っぽの私を、一体何が待ち受けているというのだろうか……
→[第二話]
2015.11.24