1
これはブリッツを助けるため、なまえがアウトロー一味のアジトに乗り込む、数日前のこと……
「遊星!お疲れ様!」
「ああ。……ラリーだけか?」
「うん。皆なまえのD・ホイールを探してるよ」
「そもそも、何故なまえはD・ホイールが必要なんだ?」
ーー「なまえっていうんだ。ちょっとワケありみたいなんだけど、悪い奴じゃないんだ!みんなも認めてくれたから、仲間に入れようと思って案内してたんだよ。それになまえもデュエリストなんだ!」
パイプラインを抜けるために日々走行訓練をしていたある日、そう言ってラリーが連れて来たなまえ。
目標まであと少しということもあり、作業に没頭する俺は、あまりなまえを知らない。
ただ、俺の知らない間にラリーだけでなく、ナーブ達とも溶け込んでいた。ナーブ達に照れ臭そうに笑うなまえを見て…笑いかけられたあいつ等が羨ましく思う。
確かに、顔を合わせれば会話はする…が、俺を見るなまえはどこかよそよそしい。
「そっか。遊星はなまえと話すタイミング、あまり無いんだっけ」
「そうだな…」
「じゃあ、なまえが記憶喪失だってことも知らない?」
「記憶喪失?なまえが?」
「うん…」
ラリーは、初めてなまえと出会った日の事を語った。
路地に気絶したなまえが倒れていたこと。
なまえは自分が倒れていた場所…サテライトについてはもちろん、自分自身の事も、何一つとして覚えていなかったこと。
腕のデュエルディスクだけが彼女の持ち物であったこと。
ラリーとデュエルをして、彼女の名前がなまえだと思い出したこと。
ナーブ、タカ、ブリッツとデュエルをしたこと。
俺となまえが、初めてあった日のこと。
「遊星が去った後、突然なまえが放心したかと思ったら、デュエルディスクを調べて。そしたら、Sp魔法(スピードスペル)カードが出てきたんだ!だから、なまえはD・ホイーラーじゃないかって!
それでナーブが「なまえがD・ホイーラーだとしたらネオ童実野シティから来たんじゃないか」って言ってさ」
なるほど、D・ホイールを手にしてみれば、記憶を取り戻すきっかけになる可能性がある…シティに行けば記憶、もしくはなまえを知る人物に会えるかもしれない。
「ナーブが張り切って探そうとしたら、タカとブリッツにつかまってさ!その時になまえのこと話して、皆でD・ホイールを探そうってなったんだ!」
「そうか」
全てに合点がいった。
「俺も心当たりを探そう」
「えっ、でも遊星…遊星にはやることが…」
事情を何も知らないなまえも、何か察していたのだろう。彼女からの視線は、よそよそしいものとは別に、どこか心配気なものもあった。
自分のことで手一杯のはずなのに、俺を気にかけてくれていたのは自意識過剰なわけでもなく、確かな事実だ。
俺が何をしているのか、踏み込んで聞いてくることはない。
それは、彼女の優しさと彼女自身の問題(記憶喪失)からくる不安からだろう。
そこで気付く。
俺はなまえとの距離感を仕方が無いものとし、自らも踏み込むことをしなかったことに。だというのに、なまえと親しくなる仲間達を羨ましく、勝手に疎外感のようなものを持ってしまったことに。
「なまえはもう、俺達の仲間だ」
「うん!」
仲間だから。
少しでも、彼女の力になりたいと…
笑った顔が見たいと、思うのだろう。
→[第九話]
ーーーーーーー
2020.8.29