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ブリッツと別れ、地下鉄へ行くと、ちょうどラリーとナーブがいた。
『ラリー、ナーブ!』
「おかえり、なまえ!」
『ただいま』
「あそこにあるD・ホイールって、なまえのでしょ?
結構かっこいいじゃん!」
『本当?』
もう届いていたとは…
と驚くなまえだが、ここに来るまでの間、サテライトの子供達に声をかけられお話していたことを考えれば、当然かもしれない。
「さっき見たぜ、お前のD・ホイール!これでD・ホイーラーだな!」
『D・ホイーラー…私が…』
暫し現実味を感じられなかったのだが、漸くなまえはその言葉に頷いた。
これが記憶探しの第一歩。
早速D・ホイールを見ようと、ラリーとナーブと別れ、地下鉄へと入って行くのだった。
***
ラリー達の言うとおり、地下鉄の階段下付近に見知らぬD・ホイールが置いてある。
青い車体に、黄色のライン。
先ほど購入したものだろうか。
ふと、遊星のD・ホイールとは色のイメージが反対だな、と思った。
遊星のD・ホイールは燃えるように熱そうな暖色。
このD・ホイールは、涼やかな寒色…とは言え、横に並ぶには少々色味が濃いだろうか。
『…って、私ってば何考えてるの』
何故か過る遊星の顔を頭を振って追い出す。
今は自分のD・ホイール!
よく見ようと近寄ってみると、妙な違和感を感じた。
……あれ?
このD・ホイール、何か、おかしいような……
「おーっす!D・ホイールは届いたか?」
『ブリッツ』
「お!届いてるじゃん!どれどれ…」
ブリッツが近づき、D・ホイールを繁々と観察する。
「わりとオーソドックスなフレームみたいだな。けど、年式も古くなさそうだし、見た目も綺麗じゃないか」
『うん。そう、なんだけど……』
「なまえ?」
『何か…変な感じがして…』
「変?ほどよく整備も行き届いて、これならスピードも出そう……」
と言いかけて、何かに気付くブリッツ。
「あれっ?……」
『どうしたの、ブリッ「あーーーーーーーーーっ!こ、こ、こ、これ!エンジンがない!!!」
『え……』
さらに細かくD・ホイールをチェックしていたが、その手を止めた。
「……くそ。CPUもだ……D・ホイール本体だけじゃ意味ねえよ!これじゃあ、動かねぇぞ!?チクショー!だまされた!!」
先程の違和感の正体に気付いたなまえ。
そしてもう一つ。
勘違いをしていたことにも気付いた。
勢いよくなまえに頭を下げるブリッツ。
「なまえ…、ごめん。本当にごめん…全部、俺のせいだよな。あんな奴信用しちまったばっかりに…」
『ち、違うよブリッツ!最終判断は私がしたことだし…私がちゃんと確認取ってなかったから。ブリッツは何も…』
そう、誰かを無条件に信頼することの危うさ。
私は、記憶と共にそんなことも忘れていた。
ラリー達の優しさが、当たり前に感じられ過ぎて、私は結果、今ブリッツを傷付けてしまった。
私に近づく人、全てが優しい人だと、本当にとんだ勘違いだ。
たまたま、最初に出会ったラリーが優しい人だっただけ。
もし、最初に出会ったのがラリーでなかったら…?
ふとブリッツの手が握り拳となり、震えていることに気付いたなまえは思考の渦から脱した。
「あのヤロー!不完全なジャンクつかませやがって!俺、あいつに文句言ってくる!」
『え、ちょっと、ブリッツ!?』
なまえが考えているあいだに、ブリッツは申し訳なさから怒りへと感情がシフトしていた。
気持ちのままに走り出したブリッツ。
ブリッツの背中を呆然と見つめるなまえ。
あれ、私どんだけ色んな人に置いてかれてるんだろう……
滑稽に右手を伸ばした状態のまま、笑うしか出来ないなまえだったが…
『……でもやっぱり、ブリッツだけの問題じゃない、よね』
そう再認識すると、ブリッツを追いかけた。
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