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「お帰り、遊星!」
「ああ…。そいつは?」
ヘルメット越しではあるものの、目が合う。
何処か探るような鋭い視線に、一瞬身体を固くするなまえ。
だが、慌ててお辞儀する。
「なまえっていうんだ。ちょっとワケありみたいなんだけど、悪い奴じゃないんだ!みんなも認めてくれたから、仲間に入れようと思って案内してたんだよ。それになまえもデュエリストなんだ!」
「そうか。…俺はもう一走りしてくる」
ラリーのマシンガントークを気にするでもなく、チラリとなまえに視線を向けると、遊星はまたエンジンをかけて走り出した。
遊星の赤いバイクがなまえの横を過ぎ去った、刹那ーー
『!!!』
なまえの頭に強い衝撃が走る。
次の瞬間、目の前に広がるセピア色の世界。
ここが、自分の記憶の断片だということが、何故かすんなりと受け入れられた。
何処かに存在しているのであろう部屋。
生活感溢れる部屋、というよりも、研究部屋のように思えた。
何かの資料が机だけでなく、床にも落ちて散乱している。
何か重々しい機械…
そして、沢山の配線に繋がれた一台のバイク。
これは、さっき遊星が乗っていたものと同じ…
そう認識した瞬間、空間に響き渡る《声》。
「……ライディングデュエル……
…D・ホイール…
…スピードカウンター…
……Sp魔法(スピードスペル)
……発動は……
……ぃ、…
……お、……ぃ
………………………い、おーい!」
『っ!!』
ハッとなまえは辺りを見回す。
セピア色ではなく、薄暗い地下鉄。
響いていた《声》も、気付けばラリーの呼びかけに変化していた。
「大丈夫?どうかしたの?すっごい汗かいてるよ」
『え、?』
額に手を伸ばすと、ジワリと感じる汗。
未だボーッとするなまえを心配するラリー。
再度、大丈夫?と声をかけようと口を開こうとするも、そっとなまえがデュエルディスクを持ち上げたことに、別の言葉が飛び出した。
「!?もしかして!何か思い出せたの?」
なまえがデュエルディスクを調べると、奥の隙間からカードが一枚出てきた。
緑色のカード…
なまえの肩口から覗き込むように見ると、その表情は驚きに染まる。
「あっ!!それは、Sp魔法(スピードスペル)カード!すげぇ!」
《Spーシフト・ダウン》。
カードを見つめながら、なまえはポツリポツリと、今思い出したことをラリーに話した。
「そう…そんな事を思い出したんだ」
『うん…』
「なまえ、もしかしてD・ホイーラーだったんじゃない?」
『え、私が…?』
「きっとそうだよ!あ、D・ホイールの事なら、遊星にも相談してみようか。遊星はD・ホイーラーだからさ」
遊星が来た時に聞いた音…懐かしい感じがしたのは、私がD・ホイーラーだったから…?
思考の渦に呑まれそうになったなまえだが、一つ思い出したね!と自分のことのように喜ぶラリーに、今はただ、ヒントを一つ得たことを純粋に喜ぶことにした。
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