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[第三話*地下鉄への試練です。]
ラリーとのデュエルを終えてわかったこと。
私の名前がなまえだということ。
そして、私とってデュエルは、手続き記憶だということ。
記憶が無くても、食べ物の食べ方、飲み物の飲み方、洋服の着方は分かっている。日常生活の営みと同じレベルで、私の中にはデュエルという存在がある。
そして、肝心の記憶には、デュエルが関わっているかもしれないということ。
そこまで頭でまとめると、なまえはため息を一つつき、意を決したように真っ直ぐ前を見据えた。
今ここでじっとしている訳にはいかない。
少し、辺りを散策してから、ラリーに教えて貰った地下鉄に行くことを決めた。
『とりあえず、右にいってみよう…』
そして一歩、前へ…
***
廃棄が建ち並ぶ、少し薄暗い通り。
その先に、開けた場所…広場のようだ。
『……ん?』
茶色をベースに、中心部には黒い楕円…カードだ。
落ちていたそれを拾うなまえ。
くるりと反転させると、全体の色が紫の罠カードだった。一番上には《砂塵の大竜巻》と記されている。
どう見ても行き止まりとなっているここに、何故カードが落ちているのか。もう少し進むめば、何かわかるかも…となまえが一歩踏み出したその瞬間ーー
「おい、そこのお前、分かってんのか?」
『っ、え?』
後ろから声をかけられた。
振り返ると、一人の少々厳つい顔をした男。
「奥にある廃ビル、アウトロー一味の溜まり場だぜ。危ない目に遭いたくなきゃ近寄るんじゃねぇぞ、コラァ!」
『っ、はい、すみません!ありがとうございました!』
あまりにも迫力があったために、なまえはそそくさとその場を離れる。
それにしても、ラリーといい、さっきの人といい、初対面の人に忠告するなんて…
恐いのはこの場所の雰囲気だけで、良い人が多いのかもしれないと思うなまえだった。
来た道を少し戻ると、最初気付かなかった奥まった所に見えた入口。あれが地下鉄か…
近付いてみると、一人の男の人が立っていた。
男もなまえの存在に気付いたようで、怪訝な顔をし、話しかけてきた。
「見かけない顔だな。俺たちに何の用だ?仲間じゃない奴は地下鉄に入れないことにしてるんだ」
『あの、ラリーに聞いて…』
「ん?ラリー?」
『はい…ラリーが後で紹介するから先に行けって…それで来ました』
「……あのなあ、見ず知らずの奴にそんな事言われても普通は納得しないだろ?」
……ですよねー。
普通そうだ。突然来て、唐突にそんなことを言い出すようなこんな女、怪しいの一言につきるだろう。
ラリーが特別優しかったんだ。
「わかったら帰れよ。何があっても、ここには入れないぜ」
『……はい』
仕方ない。
ラリーには申し訳ないけれど、このお兄さんの言っていることは正しい。
なまえはため息をつき、来た道を戻ろうと身体を翻す。
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