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「へーっ!君って強いんだ!びっくりしたよ!」
『そんなこと…』
「そんなこと有るから言ってんの!久しぶりに良いデュエルが出来たな。ありがとう、楽しかったよ」
『それは、私もです』
「ホント!?良かった!…ところで、何か思い出せた?」
『あ、』
頭の中に、1つのワードが浮かぶ。
それは無意識のうちに呟かれた。
『なまえ…』
「え?」
『私の、名前…』
「へーっ、君の名前、なまえっていうんだ。よろしくね、なまえ」
『っ、はい』
自分で呼ぶよりも、誰かに呼ばれる。そのことにより、自分という存在が認められた…そんな感覚に、嬉しさが湧き出てくる。
薄っすらと頬を染め、涙目のなまえに、驚くもむず痒くもなるラリーは、ハッと何か閃いたような顔になった。
「そ、そうだ、もっとデュエルしたら何か思い出せるかもしれないよ!」
『え、』
確かに、名前を思い出すことは出来たけど…そう簡単にいくだろうか。
「俺と、俺の仲間たちがいつも集まっているところがこの近くにあるんだ」
『ラリーの、仲間…』
「うん!ここから南に行ったところに地下鉄があってさ、いつも仲間たちとそこで会うんだ』
『…地下鉄って』
遊び場にしては、危険臭漂っていると思うのは、私だけ…?
「出来れば案内したいんだけど、俺、ちょっと用事があって…」
『それはつまり…一人で行って来て欲しい、と?』
「心配しなくていいよ!みんな良い奴だから、俺の名前を出せば大丈夫だよ」
ラリーよ…いくらあなたの仲間が良い人だとしても、見ず知らずの人間がいきなり現れたら警戒するんじゃ…
いくら友達の名前を言われたところで、結局、友達の友達は他人。
「俺もすぐに戻るからさ、その時、みんなに紹介するね。俺が戻るまでデュエルしててもいいしさ。それじゃ、また後でね!」
『え、ちょっと、ラリー!』
デッキを取りに行った時と同様に、一気に捲し立てたラリーは、笑顔で手を振りながら去ってしまった。
手を伸ばしたところで、ラリーの背中は遥か先…足速い、速すぎるよ…。
とりあえず、
『行くしか、ない…よね』
自分へのコマンドは、《ガンガン行こうぜ!》しか用意されていないようです。
→[第三話]
2015.12.6