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所変わって客室。
肌触りの良いシルクのような生地の淡い水色のロングドレス姿で、フカフカなソファにルーシィは顎を上げた状態で座っている。
ロキが立て膝でルーシィの前に来ると、ルーシィの顎を左手の親指で軽く押すように上げ、他四本の指は右頬に触れ支えている。
ハートカットのドレスなので、喉が見やすい…のだが、いかんせん、直ぐ下はほぼ完全露出の胸元。ロキは人知れず下心と戦いつつも、右手でルーシィの首をチョーカーのように一周している赤い鎖のような刻印をなぞる。
「間違い無い…これは呪いだよ」
「……(呪い…)」
「それも強力な深海の魔女の呪いだね」
しっかりお風呂で温まったはずなのだが、背筋がゾクリとした。『呪い』という言葉に、どうしても寒気がするのだ。
微かに震える手を無視して、ルーシィは《あたし、何か呪われるようなこと、した?》とスケッチブックに書くと、ロキに向ける。
通常会話より時間はかかるが、手段はこれしか無い。
「うーん…『喋れなくなる呪い』か…」
ルーシィの向かいに設置されたソファに腰掛けるロキ。
彼の言う『喋れなくなる呪い』というよりも、ルーシィとしては『声が出ない呪い』だと感じていた。それはまるで…
「ルーシィ?」
《これってもしかして、人魚姫に出てくる呪い?》
人魚姫は、人間の足と引き換えに、その美しい声を魔女に差し出した。
先ほどの浴室において、ここはルーシィの仮説通りお伽噺の世界…というよりも、お伽噺をベースとした世界だと、ロキは語った。
そして、ここに来た時点で、何かしらの『役割』が与えられているとも。
彼がここについて少し詳しいのも『役割』だからだと。
ロキには『王子様』と『進行』の二つ。
普通ならば一人一つなのだが、それはこの空間が歪んでいるからだという。
そのせいで魔法が上手く使えなかったり。
《だとしたら、『人魚姫』の願いが叶ったけど、この世界が歪んでいるから、あたし(『シンデレラ』)に『呪いの代償』が変化した…とか》
世界の歪み…世界が不完全なのは、『星霊の鍵の数が全て揃っているわけでは無いから』。
まさか星霊の鍵が出てくるとは思わず、ルーシィは浴槽内に石鹸を落とすくらい驚いたのと同時に、鍵が全て無かったのは仕方ない事だったと知り、安堵をおぼえたのだった。
「その仮説が正しいなら…いや、多分それが正しいね。だったら、この呪いを解くのは簡単だよ」
《本当に?》
だってさっき、強力な呪いだって…と、頭を傾げるルーシィなどお構いなしに、その手からスケッチブックとペンを取りサイドテーブルに置くと、両手であいた彼女の手を包み込むように握りしめた。
「ルーシィ…
今すぐ僕と結婚しよう!」
「……!?」
「ダンスパーティーも、お嫁さん探しじゃなくて、披露宴にしちゃえばいいんだよ」
ナイスアイディア☆と爽やかな笑顔で爆弾しか投下しないロキに、ルーシィの思考は見事に一時停止した。
「(誰かこの自称王子を止めて…!)」
[第六章へ続く]
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2016.08.24
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