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「人間の足を求めるということは、この世界(海)から出たいということか?それは何故だ。人魚にとってここは楽園だろう」
「まあ、人魚にとっては、な。…けど俺は元の世界に帰る。そして何より…
大切なヤツがいる。そいつに会うために…」
金糸の彼女を思い浮かべるだけで、自然と笑みがこぼれるグレイ。
ついだらしなく緩む口元を、慌てて引き締めようとする様を見ていた深海の魔女は、カクッと、まるでスイッチが突然切れたかのように俯いた。
「おい、どうし…」
フラフラする深海の魔女に、声をかけたグレイの視界は、一瞬にして暗くなる。
「っ、ど畜生がぁぁあ!!!」
「ぐはっ!?」
怒声と共に素早いモーションによって深海の魔女が繰り出した豪速球…パイのようなものを顔面にぶつけられたのだ。
ちょうど声をかけている途中だったために、パイは口の中へ。
「いきなり何し…っ!」
海の中で最初に顔面に突っ込んできたヒトデを思い出しながら、また顔面かよ!と心で悪態を付くグレイ。今だ顔にへばりつくパイを引き剥がし、抗議しようとした瞬間、足に走る、痺れのような感覚。
戸惑うグレイをよそに、深海の魔女はどこか悔しそうに話す。
「恋人がいるなら先に言わんか!足はくれてやるがな、其方を呪、呪…呪いたかったが出来る訳が無いだろう!」
しかし、どうも痺れにより、頭までもがグラついてきたためか、魔女の話の内容は上手く聞き取れない。
魔女は、グレイを見てハッとした表情をすると、眉間にシワを寄せて叫ぶ。
「さっさと行け!死にたいのか!」
《死》
いやに響くその単語に弾かれたかのように洞窟を後にするグレイ。
初めてこの世界に来たときのように、一心不乱に水面を目指す。
足の痺れが増すにつれて、呼吸がままならなくなっているーーそれはつまり、海の精霊魔法が使えなくなるーー人間に戻ってきたのだ。
「っぷは!!」
頭を勢い良く海面へ出し、適当な岩場にしがみつく。
少々噎せ返りながらも、酸素を取り入れた頭が視界にとらえ認識したものは、本来自分のもの…魚のそれでなく、人間のそれ。
「っぶねー!」
まさか、目的を達成させるために、こんなに命がかかるとは…
幾分か落ち着いたところで、辺りを見回す。
ルーシィを助けた場所から、少し離れているようなのだが…どこにも彼女の姿はない。
ルーシィは何処に行ったんだ?
情報収集に、近くを散策しているのだろうか。
多分先に行動している可能性が高い。そういや、海からチラっと見えた大きな建物があったような…
人との接触を図るなら、そこだろうか。
…まぁ、何にしても、探すしかねーか。
そう結論付けたグレイは、ゆっくりと立ち上がると、足の感覚を取り戻そうとゆっくりだが、確実に前へと進むのだった。
しかし、グレイはルーシィの居場所依然に考えるべきだったのだ…
人魚姫と呪い
その代償が何なのかを。
[続く]
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2015.12.05
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