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後数十メートルで水面に顔が出せるか?

だんだんと明るくなる海に、外はきっと昼なのだろうということが分かった。

足の使い方(?)にも慣れてきた頃だ。もう少しスピード上げてみっか。力を入れようとしたその時…





「ぅお!?」





横波に体が揺れた。

波というより水圧…か。

振動の先に目をやると、一部の水の流れが、円を描いて上昇しているようだった。あれが海の外に出たら、とんでもないデカさの水柱になりそうだな。



…などと悠長に考えた自分を、後々呪いたくなるのを、今のグレイには知る由も無い。



水の流れを目で追った先には、大きな黒い影…形からして船だということは容易に分かった。


水の流れ的に、直撃はないだろう。なら大破の心配はないとその船を横目に海上を目指そうとしたが…視界のはしに、何かが落ちるのが見えた。



積荷か…?



ジッと見るとそれは、紛れもない人型で…





「っ、!」





グレイは一目散にその人物…自分が最近気になって仕方の無い金髪の少女、ルーシィの元へと泳いだのだった。





***






「っ、ルーシィ…おい、ルーシィ!」






岩場に囲まれた砂浜にルーシィを引き上げる。





「ルーシィ、しっかりしろ!」




何度名前を呼んでも、少しも反応を示さず、返事がくることはなく…

力無く横たわる姿にぞっとした。





「ちっ。やっぱ、人工呼吸しか、ねぇ…よな?」





人工呼吸。

頭を過る邪な考えに顔が赤くなったのがわかる。




「ルーシィのため、だ…」





そうだ、これには人命がかかっている。少しの遅れが、命取りになるんだぞ。

例え、相手が想い人でも…相手はオレを何とも思っていないとしても…





「……悪ぃ、ルーシィ…」





そっと、肩を掴む。

海水に濡れたせいで、いやに艶かしく見える唇に、生唾を飲み込む。が…





「あた、し…生きてる?」





脱兎の如く離れた。





「あ、もしかして、あたしを助けてくれたの?」





彼女の問いに頷くことしか出来ない。耳が真っ赤だということには触れないで貰いたい。





「ありがとう、ブレイブ!」




助かったわ!というルーシィの声にピタリと固まる。

明らかに男であろう名前…それに自分の中で、黒い感情が反応する。





「ちょっと、ブレイブ?聞いてる?」

「……れだよ」

「え?」

「ブレイブ…って、誰だよ?」





そう言って振り返る。





「うそ…」





そこには、目を見開くルーシィ。


金糸の髪に、丸い瞳。

血の気を取り戻した柔らかな頬。

そして…




「……グレイ…?」



自分を呼ぶ彼女が、愛しく思えるのだった。


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