君への可愛いは特別
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「むぞらしか」

千歳のこの言葉を聞くことは、度々ある。
どうやら可愛いとかそんな意味らしいが、あいつは猫にでも花にでもはたまた女の子にでも、簡単に連呼するのだ。
前の二つまでならまだ許せるが、女の子にまで言うのはいかがなものだろう。
天然タラシ、というか。まさに、それだ。






「お前、むぞらしかって言うん好きやな」
「…うん?」

教室で二人きり。
後期中間のテスト勉強なう、だけど。
何の脈絡もなく突然言ったからか、千歳は不思議そうに聞き返した。俺はプリントを解きながら、一瞬だけ千歳に目をやる。

「何にでも言うやん」
「んー、まあ、むぞらしかけん」
「無節操」
「えー」

あはは、と笑う。彼特有の笑い方。



「急にどげんしたと?」
「や…別に、」

千歳とは友達以外の何物でもないのだから、別に大した意味はない、のだが。
ただ、何となく思っただけで。他意なんて。
ペンをノックして、出た芯を戻して。そんな意味のない作業を繰り返す。

「お前はむぞらしかむぞらしか言い過ぎちゃうかなー、思って?」

そう言ってから、心の中でひっそりと溜め息をついた。
別に言われてみたいとか、そんなこと思ってない。軽い気持ちで良いからとか、思ってない。
思ってないのだ。言われる対象が少し羨ましいなあと思っただけ。ただの友人に可愛いと言う奴がどこにいるだろう。

「白石もむぞらしかよ?」

ここにいた。






「…はあ?」

机についていた肘が端からずるっと滑り落ちそうになって、なるべく冷静を装いながら体勢を元に戻した。
我ながらなんて可愛いげのない返事だろうと思う。と言っても千歳にはいつもこんな対応だし、取り繕っても何の意味もない。
でも、まさか男にそんな科白を吐くとは思わなくて。
大体、千歳にそんなこと言われても嬉しくない、はずだ。
あまりにもナチュラルに、本当に何でもないことのように言われたから、こっちもどうしたら良いものか分からない。

「てか、男なんにかわええとか言われても嬉しないから。どういう意味や、ほんま」
「白石はむぞらしかよ?」
「……せやから、嬉しないって」
「ほんに?ほなこつ?」
「……当たり前やろ。男やで、俺」

何か含んだような言い方をする千歳に、少し苛立った。
嬉しくない。嘘じゃない。
あからさまに眉間に皺を寄せ声を低くした俺に、千歳はきゅう、と唇をすぼめた。

「そない疑わんでもええやろ」
「ばってん、白石、嫌がってなか。少なくとも、嫌がってはなかよ。絶対」
「……」

千歳は、にい、と口角を上げて、どこか楽しそうに言った。絶対、と言い切るものだから、反論もしづらい。
いつも適当なくせに、なんでこんなときは絶対とか言うんだ。
嫌がってはいない。
そうだろうか。「…白石」
「やって、誰にでも…」



そこまで言って、はっとして止めた。
いや、ちょっと待て、これだとまるで、

「……それ、どげん意味?」
「別に、」
「もしかして、妬いとっと?」
「っ、何で俺が妬かなあかんねん!」

つい声が大きくなってしまて。
これは千歳がしつこいからそうしてしまっただけで、決して、図星だからじゃない。
言い訳臭いのは自分でも分かっている、が。だって、本当にそんなこと、ない、のに。
なんでこんなに焦らないといけないんだ。

「今ん言い方、俺だけに言ってほしかち言いよるごつ聞こえたけん」
「んな訳、」
「ヤキモチ、やろ?」
「……ちゃう」

違う。違う、はずなのだ。
念を押すように言われてしまえば、否定もしづらくなってしまう。
どうして向かい合って勉強をしようなんて思ったんだっけ。
千歳の視線が突き刺さっている。伏せている目を上げることが出来ない。
逸らしたとしても、それは俺の首を絞めることになる気がするのだ。
ペンを握る自分の手元を見つめたまま、俺は黙っていた。

「……白石もむぞか、猫さんもむぞか、女の子もむぞか。ばってん、白石に言うんと他に言うんはいっちょん違っとうよ」
「……」

なんだ、それ。弁解?
馬鹿らしいと笑ってやるべきところだ。そう思うのに、出来ない自分がいた。
こんなことを言われて、安心している自分がいたのだ。
可愛いと言われる俺以外の他の奴らと、俺は違う存在なんだ、と言われたようで。
自分の中のわだかまりとか、もやもやとか、そういうものが全て弾けたような感覚だった。
千歳の、その一言で。



「…白石、こっち向きなっせ」
「……」
「……俺は、」

俺は少し唇を噛み、顔を上げた。千歳は目線を左にずらして、また戻して、口を開く。
そうして、



「   」

紡がれた、言葉。






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undergroundの淕さんにリクエストして書いていただいちゃいました優しすぎる…!!
タイトルのをお題にかいて下さいと言ったらこんな美味しいちとくらになってきたよ流石すぎです…///
『  』でそれぞれ読んだ方の想像が沸き立つ!!
素敵な作品有り難うございました^///^


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