「焼きそばパン買ってこい」
「うん、今行ってくるね」
 相坂(おうさか)に命令すると、相坂は「行ってきます」と言って俺の頬にキスをした。行ってきますのキスはマストで、俺は「早く行け」と言いながら相坂の頬にキスをする。相坂が教室を出ていくのを見送った。

 幼い頃から憧れのヤンキーと言うものになりたくて、ヤンキーの巣窟という帝辺高校に進学したら、なんだか学内改革が起こったらしくヤンキーのヤの字もなかった。
 けれど諦めきれなかった俺に、隣の席だった相坂は優しく声をかけてくれた。
『乃江(のえ)くんはヤンキーになりたかったのかあ。ヤンキーになったらどんな事するの?』
『ヤンキーつったら、やっぱ焼きそばパン買ってこさせたりとか、そういうの命令したいじゃん』
『そっかそっか。じゃあ乃江くん、僕に命令してみる?』
『え、いいのか……?』
『うん、ほら、命令して』

 ヤンキーってこんな感じだったっけ?という違和感がありつつも、相坂をパシらせたりするのはなかなか優越感に浸れて楽しかった。
 相坂は優しいし、顔も結構男前だ。その上勉強も運動も出来る。そんなやつが俺の言うことを聞いて従っているんだから、そりゃ楽しい。
「ただいま、乃江くん」
 戻ってきた相坂は小さなビニール袋を抱えていて、俺の頬にただいまのキスをした。
「今日は天気良いし、屋上で食べる?」
「そうだな、そうしよう」
「じゃあ行こっか」
「ああ」
 相坂が手を差し出したので俺はそれを握って立ち上がる。
 相坂は俺の舎弟だから、こうして甲斐甲斐しく色々やってくれるのだ。
 ヤンキーたる者、身の回りのことは舎弟にやらせるんだよ。と相坂が教えてくれた。なるほど確かに、それってヤンキーっぽいもんな。

 がちゃん、と屋上の扉を開けると、いつも通りそこそこの人がいた。
 校舎全体は二階建てになっていて、その屋上はちょっとした作業スペースとして解放されている。
 特に最近は、園芸部・機械工作部・化学部が合同で屋上の緑地化を進めていて、屋上には色々な草木や小川が作られていた。
 俺と相坂はいつも昼休みに使っている藤棚の下のベンチに座った。
「乃江くん、はい、あーん」
「あ、」
 ヤンキーたる者(ry)により、俺は相坂の膝の上に座って相坂に焼きそばパンを食べさせてもらう。
 いや、俺が食べさせるようにさせているんだから、焼きそばパンを食べさせさせている、のか……?
「美味しい?」
「んまい」
 相坂が買ってくる焼きそばパンはいつも、ほっぺたが落ちそうなくらいに美味かった。柔らかいコッペパンはほんのり甘さが舌に残って、ソースの効いた焼きそばと相まって丁度良く美味しかった。
 焼きそばも柔らか過ぎず固過ぎず、具沢山で、焼きそばだけでも美味しい。
 時々学校の外でも食べたくてコンビニやパン屋に行っても、相坂の買ってくる焼きそばパンには出会えなかった。だから昼休みだけが、至高の焼きそばパンタイムだ。
「ソース付いてるよ」
「んあ」
 相坂の手が俺の顎を掴んで、ちゅくっと唇の横を舐め上げる。
 どうせまたソースが付くのに、俺が焼きそばパンを食べるたびに相坂はちゅっちゅしてきた。
 そんなだから、焼きそばパンを食べ終わる頃には、俺は空腹とは違う物足りなさを感じた。
「……相坂ぁ」
「お口寂しくなっちゃった?」
「ん、早く」
 俺がねだると相坂は小さく笑って、俺にキスした。舌を絡めて、唇を吸って、脳がとろけるすごいキス。

 あれ、ヤンキーってこんなだっけ。でも、焼きそばパンを買いにパシらせてるんだし、きっとヤンキーに間違いない。

終わり

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