「げほっげほおえっ、ぐっ、おえっ、」
 性器が口の中から抜かれて盛大にむせた。胃の奥からこみ上げて、精液を吐き出そうとするが上手くできない。
「口、よくゆすいでね」
 診察台に繋がるカップ置きと小さな水洗装置。カップを持ち上げると水が流れて、そこに吐き出すと流れていく。
 晴翔は水を口に含んでは吐き出して、執拗に口をゆすいだ。
 喉奥にこびりつく精液の味が、匂いが落ちなくて気持ち悪い。それ以上に、口を犯された感覚がまだ残っている。
 ゾッ、として身体が震え上がった。俺はなにをしている、なにをされている。
「気持ち良かった?」
「な、」
 頬に指が触れて唇をなぞった。長くて細い指が口の中に入るのを阻止できなかった。
 指が前歯の無くなった歯茎を撫でる。
「ここ、擦られて気持ち良かった?」
 そんなわけない。そんな訳ないのに、指がふにふにと撫でると身体がゾクっと震える。
「それとも上顎かな? こっち好きな人は、結構いるんだよ」
「あ……」
 さらに指がねじ込まれ、上顎を撫でる。思いがけない刺激に上擦った声が出て、晴翔は顔を赤くした。
「僕のペニスで窒息しかけたのが良かったのかな」
「うぐっ……」
 指は引き抜かれ、晴翔の唾液濡れのまま、晴翔の首に触れた。優しく頸動脈を押さえる。ジリジリと緊張感が増して、心臓が耳元にきたようにバクバクと鼓動した。
「気持ちよく、ない……」
 晴翔の全力の否定に男は微笑んだ。まただ。またあの、居心地の悪い微笑みだった。
 どんなにしても、誰もくれなかった。慈愛に満ちた優しい目。
「でもここは、反応してる」
「あ……」
 男の手がそっと撫で上げた。晴翔はそれだけで軽くイきかけて、仰け反って震えた。
 無防備に晒された喉仏に、男は喜んで唇を寄せる。そうされて、晴翔の熱は益々高まる。
「怖がらなくていいよ」
 男は晴翔の上に跨り、晴翔の額に額をこつんと当てる。
 真っ直ぐに見つめてくる瞳に射抜かれて、言葉は消え失せる。
 唇が触れて、晴翔の熱が撫でられる。ゾクゾクと駆け上がる快感に、晴翔はもう、全てがどうでも良くなった。

「あ、あっ、あっ、あー、っあ、やだ、やだっ」
 スウェットが押し下げられて、剥き出しになった性器を擦られた。反対の手が口の中を弄る。舌の根元を揉まれ、唾液まみれで喘いだ。
 くちゅくちゅと音を立てて自身を高めてくる男の手に縋り付いた。
「気持ち良いんだね。先っぽぐちゅぐちゅだよ。指で擦ってみて」
 晴翔は促されるまま、人差し指で先端を撫でた。全身が痺れる感覚に打ち震えて、思わず口の中に入れられた男の指を噛んでいた。
 抜けた前歯のあったところで、ふにふにと感触を愛でる。気持ちよくて心地良かった。ちゅうちゅうと吸いたてるととても落ち着く。
 男が音も立てず笑う。晴翔の様子は乳を吸う赤児のそれでとても愛おしかったからだ。
「イきそう?」
「ん、ん、」
 男の手が早くなる。晴翔も敏感な穴に爪を立てた。痛いくらいが気持ち良かった。
「ほら、気持ちいい」
 男の手が晴翔を追い詰める。晴翔はきつく目をつぶって、口の中の指を噛み締める。
 びく、びくと跳ねて、自分の手の中が熱くなり、冷えていくのを感じた。
 イったんだ。一人でした時よりも、これまでのどの射精よりも気持ち良かった。
 惚ける頭で、口の中の指を啜るのが気持ち良かった。
「ふふ、なにも怖くなさそうだね。またお薬二日分出しておくから、終わったらおいで」
 指が口の中から出て行くのがとても寂しかった。男はそんな晴翔に顔を寄せて、半開きになった唇に唇を重ねる。
 そっと歯茎を舐められて、晴翔は身体の中がキュンと疼くのを感じた。
 また来なくちゃ。薬、薬飲んで、そしたらまた……。
 

終わり


戻る

戻る