自分と医者以外いないこの歯医者は、果たして運営していけるだけの儲けが出ているのか。
 そもそも無理矢理歯を抜かれた時の支払いもしていない。のこのことやってきて、写真をネタに強請られでもしたら……。
 緊張と不安で張り詰めながら、晴翔は今更ながらそんな事を思った。
 それに、無くなった歯の代わりに入れ歯にするのかインプラントにするのかわからないが、ネットで調べたらインプラントなんて数十万もするらしい。
 そんな金払えるわけもない。ゾッとして震え上がると、男はにこにこと笑いかけてくる。
「食事や睡眠はちゃんと取れました? 家族や友達に歯のこと聞かれたりしました? 少し不便だったでしょう」
 自分でこんな所業をしてのけたのに、ぬけぬけと言う。面の皮が厚いというより、本気でなんとも思っていないらしい。湧き上がるのは腹立たしさよりも、薄気味悪いという感覚と嫌悪感だ。
「じゃあここ座ってね。口の中見るから大きく開いて」
 晴翔はこの間座らされた、リクライニングする治療椅子に再び座らされる。
 殆ど寝そべるようにリクライニングした椅子の上で、晴翔は口をもごもごとして開かない。
 トラウマものの処置を思い出して口を開くのが怖かった。握った拳も身体中のどこも、緊張で強張っている。
「この間は痛い思いさせちゃったからちょっと怖いかな? 今日は抜いたり削ったり痛いことはしないからね」
「っ……」
 男は言いながら、晴翔の手にそっと触れる。晴翔がビクッと震えたのを知っていながら、その手を包んで握った。
「じゃあ目隠ししようか」
 男はそう言うと、横にあったタオルを晴翔の目の上にかけた。白いタオルだから光を通すが、白く眩しい世界以外になにも見えなくなった。
 こっちの方がよっぽど怖い。口を開けずにいると、唇を何かでつつかれる。それは唇をなぞり、歯の間に入り込み、口を割り開く。
 手袋をつけた男の指だ、と気付いた時には、その指は口の中を縦横無尽に動き回る。
「抜いたところ触るね。もう痛みは無くなってきたかな? 薬は足りた?」
 無くなった前歯の歯茎をつんつんと触れる。男の指が舌を抑えながら歯茎を触るので、痛いとも痛くないとも言葉に出来なかった。
「もう少し倒すね」
 言葉と共に椅子がゆっくり傾き、水平に仰向けになる。そのまま口を開けていてね、と少し高い位置から聞こえた。
 どうしてこんな事をしているのか曖昧になりながら、薄く開いた口に熱が触れた。
 柔らかく弾力のあるそれは、拒む暇もなく、喉奥まで突き立てられた。

 晴翔は今更気付いた。
 高校生の俺が金なんて持ってない事は最初からわかってるはずだ。だから、俺に求めるものなんて。

「おごっ、おえっえ、かっっは、あ、」
 柔らかくて生温かいそれは上顎と抜けた前歯の隙間に擦り付けるように前後する。痛くはないが苦しくて気持ち悪かった。
 噛みちぎってしまいたいのに、前歯はない。馬鹿みたいにぴったりと収まりが良く、男の肉棒にされるがままだった。
「少し、苦しいかな? でも、僕は気持ちいいから、もう少し、頑張ってね」
 目隠しのタオルごと頭を押さえつけ、少し息の荒い男は高揚感を隠さずに言った。
 頭を押さえる男の手をどかそうと晴翔は腕を握ったが、信じられない程の力の強さで、頭が割れそうなくらいだった。
 耐えきれず手を離すと、男の手の力も緩む。そうして、心ゆくままに口を犯した。
「ぐふ、は、は、あ、」
「イくらからね」
「んんんっっ」
 再び喉に突きつけて、男はビクビクと跳ねながら果てた。喉に直接叩きつけられた精液が気管に入ってむせながら、それでも少しずつ胃に流れ落ちていく。
 苦しくて気持ち悪くて仕方ないのに逃れられない。タオルがはらりと落ちて、男の視線が晴翔を嬲る。
 飲みきるまでずっとこのままだ。言われなくたって理解した。

続く

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