飼い子、もしくはカイコ(天のしたに人の字)と呼ばれる生き物は、かつて「鬼子」として忌み嫌われていた。
 地方のとある村には肌も髪も白く、瞳だけが異様に赤い子供が生まれることが多々あった。異形として恐れられ、ひとところに押し込まれ、ひっそりと生涯を終える。
 ある時、その村を含む近隣を治める領主が鬼子に目を付けた。白く透き通る髪をいたく気に入り、 鬼子の髪で作られた織物を喜んだ。
 その頃から鬼子は「飼い子」と呼ばれ、村で行われた飼い子業は今日に至るまで続けられている。

 こんな筈では無かったと、三島(ミシマ)は落ち着かない心臓が痛むのを押さえた。
 安ホテルのベッドですやすやと眠る彼は、手首が紫に変色して潰れていたが痛がる素振りもない。
 彼らに痛覚はほとんどなく、その他の五感も退化が進んでいた。目は色を認識せず、味は判別をしていない。嗅覚は鈍感で、聴力はあったが言葉を理解するには至らない。
 人に飼われ生涯を終える彼らに、それらの器官は生きる上でもはや不要となっていた。

 飼い子を育てるには国家資格が必要となっており、多くの制約に縛られている。飼い子を施設から持ち出すことも禁止されていた。
 三島は飼い子業に携わり15年のベテランだ。その間に同僚達が飼い子を連れ去り解雇される事が多々あった。
 三島にとって飼い子は豚や牛のような家畜に過ぎない。いや、それ以下の知能も感情も持たないそれだけの物とすら思っていた。
 いなくなった同僚達を蔑む事はあっても同情などしない。
 それが今、どうして逃避行のように、飼い子を連れ出し逃げたのか自分自身理解できなかった。
 性に執着する彼が、生きていると認識したからだろうか。だとしたら、あまりにも失礼な話だ。
 彼らの前に触れた飼い子達だって、たしかに生きていたのに。

「んう……」
 ベッドの上にうつ伏せになりヨダレを垂らす。彼らは寝返りすら打たない。
 仰向けにして、あぐらをかいた膝に頭を乗せる。短くしたばかりの髪に触れ、そのまま頬を撫でる。大福餅のように柔らかくすべすべで、触っているだけで気持ち良い。
 触れれば触れるほど愛おしさが増すのはわかっていた。それでも止められなかった。
 彼からほのかに香る甘い匂いが思考を停止させる。あどけなく開いた唇に唇を重ね、舌を絡めるのにそう時間はかからなかった。

「はっあ、あ……っあ」
 背を仰け反り、ビクビクと身体を跳ねさせる。手に着いた彼の吐き出したものを、彼の「いれられるところ」に擦り付けた。
 「いれられるところ」だなんて馬鹿げている。でもここは、そういう穴なのだと自分を納得させる理由にはなった。
 甘く解けたその穴に自身を当てがう。
 他の飼い子に「いれられる」前に連れ去ったから、彼は挿れられる喜びは知らない。けれども、散々丁寧に慣らした穴は自分を誘うようにヒクついていた。
「ああ……くそ……」
 柔らかくて温かい穴が自身を優しく包み込む。泣きたくなるくらい気持ち良くて、直ぐにも果てそうだった。
「あっ、あっ」
 腰を打ち付けると、彼は押し出されるように喘ぎを上げた。内臓は溶けているように柔らかい。それを掻き回して、深くまで穿つ。
 びくっ、びくっと震えて彼が果てたのがわかった。奥が痙攣して先端が吸われるように戦慄く。
「く、う……」
 最奥に熱を放って、それでもまだ猛る自身を感じた。
 一度出した事で頭が冷えることもない。むしろ、熱は増すばかりだった。
 部屋中に満ちる甘い香りが強まった気がする。頭がぼーっとして、上手く考えられなくなる。
「は、あ、」
 キュン、と穴が締め付けた。後ろを振り返った彼が物欲しそうに見上げていた。
 何かが切れる音がした。
 正常位で突き上げる。掴んだ腕は力が入りすぎて痣になっていた。
 簡単に壊れる生き物だと知っているのに、力を抑える事が出来ない。理性が飛んで、腰を振るう獣になる。
 開いた唇から舌を出して俺を求めているように思えた。重ねた唇は酷く甘い。グズグズに溶けて、なにもかもが混ざり合う。


 安いビジネスホテルのベッドで三人の赤子が発見される。皆一様に白い肌と髪、赤い瞳をしていた。
 生まれてから発見までに二、三日がかかった。
 その間、その赤子達はベッドに崩れ落ちた××××××を栄養に生き長らえたらしい。
 その赤子達は飼い子と認定され、施設に引き取られる。
 ちょっとした事件として噂話や都市伝説になるが、この界隈では珍しい事では無かった為、すぐに誰も気にしなくなる。
 虫が一匹、人が一人死んだところで。

終わり

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