いつ頃から「物心」というものがついたのか、そもそもそれ以前は何を考えどうして生きてきたのかわからない。
 気がつくと与えられた物を食べ、されるがままに生きている。
 彼らはそういう生き物だった。
 一日3度の食事は全て甘いフルーツだった。柔らかい桃やすりおろしたりんごを手のひらに乗せて与えると、彼らは舌で舐めとる。歯は退化して無くなっている。
 朝と夜の食事が終えると禊の時間だった。二時間程もかけて、頭のてっぺんからつま先まで、ぬるま湯に調整された水を手に掬い、撫で洗う。
 ことさら大切に扱われたのは透き通るほど色素の薄くしっとりとした髪だった。長くしなやかな白い髪は踝に届く程だった。
 そこまで伸びると床を這い、痛めてしまうので短く切られる。
 彼は3度目の採取を終え、大人となった。
 その日から役割は変わる。相変わらず大切に扱われはするが、生活は劇的に変化した。
 食事を終えると禊はそこそこに、それまで触られなかったところを執拗に弄られる。
 彼らはそこを、「いれるところ」「いれられるところ」と認識していた。
 柔らかいままの「いれるところ」を、それまで世話してくれた大きく優しい手が握り込む。ぬたぬたとした液体を潤滑油に上下に擦ると、「いれるところ」は次第に硬くなっていった。
「ん……あ……」
 彼らは言葉を知らないので、それがどういう感覚なのか表現することは出来ない。
 身体の奥が熱くなり、じんじんと溢れ出るものを感じた。それは次第に強くなり、筆舌に尽くしがたい物が身体を駆け巡る。
「ううっあっ……あ……」
 彼はヘコヘコと腰を揺すった。絶頂へ程近くなった時に手を離され、本能に従って腰を動かしはしたが、達することはなかった。
 得体の知れない熱いものが身体を駆け巡る感覚を思い出し、「いれるところ」は透明な液をよだれのように垂らした。
 ひくひくと切なく震えている「いれるところ」が落ち着き柔らかくなった頃に、大きな手は再び「いれるところ」を握った。
 先ほどまでよりも早く硬くなり、すぐに絶頂しようとする。その時には手を離され、揺する腰も押さえつけられた。
 ひたすらに甘美な快感は繰り返される。二度三度繰り返すたびに絶頂は近付くが、ただの一度も達することは許されない。
 「いれるところ」が硬くなったままになると、「いれるところ」の根元にはベルトが付けられた。きつく締め付け痛みすらあった。
 「いれるところ」は少し柔らかくなったが、大きな手は優しく上下に擦り、硬くさせた。柔らかくなるたびに硬くさせた。
 大きな手が次に触れたのは「いれられるところ」だった。
 うつ伏せになった彼の柔らかく手触りの良い丘を手のひらが割り開き、小さな「いれられるところ」に触れる。
 再びぬたぬたとした液体が丁寧に塗り込まれる。「いれられるところ」はくぱくぱと、指が触れるたびに飲み込もうとひくついた。
 指は次第に深くなっていく。潤滑油を足しながら、指の根元まですっぽりと受け入れられた。
「ん……ん……」
 痛みも苦しみは無かったが、異物感に首を傾げた。排泄は全て垂れ流してきた生き物だ。ずっと柔らかい果物を与えられてきたから、排泄物も柔らかいものだった。
 だから細い指も、「いれられるところ」にとっては太くて硬い異物だった。
 指は抜き差しを繰り返し、丁寧に「いれられるところ」を慣らした。潤滑油を継ぎ足し、異物に慣れるところから、指を三本受け入れられるようになるまで繰り返される。
 三本の指がぐるりと中をなぞり、名残惜しげに引き抜かれる。「いれられるところ」はぽっかりと口を開き、物欲しげにくぱくぱと開閉した。
 彼は四つ這いに体勢を変えさせられる。
 そしてゆっくりと手の中で一番長い指が奥まで差し込まれる。指一本では到底物足りなさがあったのか、「いれられるところ」は慎ましやかに指を締め付けた。
 だが、指の目的は深いところではなく、浅いところにあった。
 腹側の壁を撫でると、柔らかいところを潰した。他とは違う感覚に、腰がピクンと跳ねる。
「あ……? あ……?」
 そこを指の腹に押されるたびに、首を傾げて声を零した。「いれるところ」を触られて感じた絶頂感とは違う。どこか切なくて泣きたくなるような、不思議な感覚に心も身体も付いていかない。
 やがて二本の指がそこを挟み、こりこりと刺激した。その頃には「いれるところ」もとろとろと涎を垂らす。
 もう一方の手が「いれるところ」の先端の穴を撫でた。敏感なところを触られ、胎内の弱点を抉られ、そのたびに彼はビクンビクンと身体を跳ねさせる。
 それをしばらく続けられ、「いれるところ」はプシッと液体を噴出させた。
 彼の身体が弛緩して四つ這いを保てなくなると、小さい腰掛のような台が腹の下に置かれる。再び腰を上げた状態で、等しく中と外をこねくり回された。
 幾たびも液体を噴出させると、彼は気を失い、「いれるところ」は粗相をする。
 それは甘い匂いをさせた。与えられる全てが甘くて柔らかいからだろうか。
 彼の排出する全ては甘い味がした。
 気絶するまで「いれるところ」と「いれられるところ」を弄ばれる日々を数日過ごすと、彼は初めて別の部屋に入れられた。
 見たことのない台(それはベッドであるが、彼は知らない)、世話をする人以外で初めて見た生き物(それは彼と同じ種族で、彼と同じ扱いを受けている)と対面する。
 ベッドに乗せられたもう一方の生き物は、四つ這いになり、腹の下に例の台を置かれて身体が潰れないようにしてあった。
 「いれられるところ」は潤滑油でとろけており、その時を待っている。
 それを横目に見ながら彼はベッドの上に座らされ、「いれるところ」を握られる。その先端の小さな穴に、細く長いスポイトが差し込まれた。
 初めての侵入だったが痛みはない。スポイトに塗られた潤滑油には、痛みを麻痺させる成分が入っていた。
 そうしてスポイトが深くまで差し込まれ、たっぷりの液体を注ぎ込む。二度三度繰り返し注がれ、彼の身体に変化が出た頃に、根元を締め付けるベルトが外された。
 彼の「いれるところ」もまた、その時を待っていた。
 いつも世話をした大きな手が、彼の「いれるところ」を握る。それだけで絶頂を迎えそうだったが、指が根元をきつく締め付けて許さなかった。
 身体を後ろから被われ、もう一方の生き物の後ろに移動させられる。
 もう一方の生き物の世話係が、その生き物の「いれられるところ」を手のひらで優しく割り開いた。
 彼は初めて、自分の「いれるところ」が別の生き物の「いれられるところ」のためにあることを知った。
 世話係の手ほどきで「いれるところ」は「いれられるところ」に納まっていく。
 熱くて柔らかいそこは、彼の「いれるところ」を優しく強く包み込む。
 どろりと、「いれるところ」の先端から蜜が溢れた。彼の初めての絶頂は、そうとは知らずに終える。
 彼はその心地良さに酔いしれた。柔らかくなることのない「いれるところ」を擦り付けるために、彼は腰を動かす。
 彼はほとんど抜けそうになるまで腰を引き、もうそれ以上深くにはいかないところまで腰を打ち付けた。長いストロークが一番良かった。
 もう一方の生き物は深くに突き立てられるたびに絶頂を迎えていた。中は痙攣して戦慄き、彼の「いれるところ」を締め付ける。
 それが心地良い彼は、奥まで突き立てると痙攣をゆったりと味わい、そしてまた腰を引いて深くまで突き立てた。
 ひどくゆったりとした行為だった。個体によって好みが違うのだと、世話役たちは思った。
 例えば今いれられている方の生き物は、「いれるところ」の先端を刺激されるのが好きで、「いれられるところ」の浅いところで抜き差しを繰り返していたのだから。
 彼は何度も繰り返し腰を打ち付ける。それはもう一方の生き物が気絶した後も続けられた。
 彼の「いれるところ」もほとんど蜜を出さなくなった。それでも終わる時を知らないので、何度も何度も繰り返す。
 もう一方の生き物が気絶してしまったが、胎内は無意識に痙攣して彼の「いれるところ」を締め付けた。けれどもそれでは物足りなくなってしまった彼は、より深くに擦り付けようと無理に押し上げた。
 彼はもう一方の生き物の腰を、赤く痣になるまで強く掴む。それでも足りないので、身体を重ねて、ずんずんと押し付けた。無理に「いれられるところ」を進もうとするあまりに、もう一方の身体は海老反りした。
 もう一方の生き物の腰がへし折れそうになったところで世話係達が彼を引き剥がす。
 まだ離れたくないと、彼はもう一方の生き物の首を噛んだ。歯がないので跡は付かないが、吸い付いて抵抗する。その跡はもう一方の首に残った。
 彼の世話係は、彼の治りのつかない「いれるところ」を優しく握った。先端を手のひらで撫でて液体を噴出させる。
 ここまで強い抵抗を見せた生き物は初めてだった。大抵は腰を振ったままではあるものの、抵抗なく世話係に引き剥がされてしまう。
「ああ……あああ……」
 噴出を終え、粗相をする。世話係は手についたその粗相を舐めとる。
 普段は決してしない。
 彼らはそういった生き物でしかなく、世話係は彼らを世話するだけでしかない。愛着など、そこにはなかったはずなのに。
 「いれられるところ」を使ったその生き物はそのまま死んでいく。大人になると果物では栄養が足りず、衰弱死するのだ。
 「いれるところ」を使った生き物は、次の「いれるところ」を使う生き物の「いれられるところ」になる。
 つまり、彼もまたしばらくすれば死ぬのだった。
 世話係は彼の頭を撫でながら、言葉にできない感情を抱えた。
 そんなものはないと思いながら、否定することは出来ない。
 ただそれだけの生き物でしかない彼に、愛着を持ってもしようのない事だというのに。

終わり

戻る