叔父が死んだ。急性心不全で、誰かに気付かれることもなく、ポックリと逝ってしまった。
 絵描きをしていた叔父の絵も、ヘビースモーカーだった叔父の匂いも、熱を帯びた俺を呼ぶ叔父の声も、呆気なく焼却処分された。
 残ったものは何もなくて、叔父の住んでいた家も近々売り払われ、俺の住む場所も居場所も無くなる。
 俺もあんたの物だったんだから、一緒に焼却処分して欲しかった。その小さな壺の中に、粉々になって混ぜて欲しかった。

「あああああああああああああああああああああああ」

 胸が痛くて苦しい。
 あんたの病気が移ったみたいだ。

「ああああああああああ……」

 頬を流れる熱が、叔父に指で触れられた熱を思い出させる。

「っ……」

 残ったのは、胸の痛みだけだ。瞼の裏で鮮やかに蘇る、あの日々だけだ。俺の胸に刻み付けられた、想いだけだ。



 死んだらなにもなくなってしまう。あっさりとこの世から消えてしまう。それが悔しくて腹立たしくて、俺はそれをキャンバスに叩きつける。
 赤青黄色の鮮やかで眩しい世界を。赤黒緑のドロドロとした痛みを。

終わり

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