さも「今日はただの二月第二週の日曜日ですよ」というていでクソみたいなバなんとかデイをやり過ごし、夜勤のコンビニバイトを終えて一人暮らしのぼろアパートへ帰ると、部屋の前に見た事のない男が立っていた。
 年は十代後半から二十代前半、褐色の肌と短く揃えた髪がスポーツマンらしさを醸し出している。薄手のコートでよくは見えないが、なんとなく肩とか身体つきから細マッチョと予想される。顔は爽やかなイケメンだった。
「……えっと、どうかされましたか」
 俺の部屋の前に立ち、微動だにしないスポーツマン風イケメンがたいそう邪魔だったので声をかける。
 身長は180ちょいくらいで、俺より少し大きかった。
「おかえりなさい、待ってたんです」
 男が八重歯を見せびらかしながらにっこり笑った。
「は?待ってたって……」
 なんだこいつ、きっしょ。そんな気持ちを隠しもせず、顔全体で表現した。
「僕です、チョコです。先日貴方に助けてもらった、チョコです」
「はあ?」
 ますますわけのわからない事を言い出す男に、いよいよ警察を呼ぶか?と考え始めた頃、男が俺の腕を掴んだ。意外と強い力でそっちに気を取られていると、眼前に顔が近付く。
 甘い匂いも、甘いキスも、それはたしかにチョコだった。

「はっ、ん、なんだよお前、きもちわるい」
 うっかりキスでくらくらしかけている自分を制し、男を押し退ける。胸筋で硬い胸板を押して、それでも男に掴まれたままの腕は離されない。
「今日こそはと思い、ずっと待ってたんです。穂高(ホダカ)さん、愛してます」
「はぁあ?!いや、え、えええ?!」
 全然わけがわからなかった。たしかに俺は穂高だが、こいつの名前はおろか会ったことすら記憶にない。その上言っていることは一切理解できない。変な声を上げるしかなかった。
「大丈夫、怖がらないで」
「いや怖い怖い違う意味で怖いなんなのお前怖い怖すぎるよ」
 こんなん逆にテンション上がるわ。全力で拒否するのに、男はなぜか俺の部屋のドアを開け、そこに俺ごと入り込む。待ってなんでドア開いてるの?一緒に入ってくるの?
「んっんんっむ」
 困惑していると玄関を入ってすぐに壁に押し付けられ、再び口付けられる。さっきは触れるだけだったのに、今度は舌まで入ってくる。
 気持ち悪いはずなのに、注がれた唾液は甘くチョコレートそのもので、その甘美なキスに脳がとろとろに溶けたようだった。なにも考えられないほどの甘いキス。
「はあっ、はあ、はあ、はあ」
「穂高さん可愛い」
 可愛いじゃねえんだよ。
 こちとら濃すぎるキスで腰が抜けて壁伝いにズルズルへたり込んでるんだよ。なんなんだお前はほんとなんなんだこの状況。
 訳がわからなすぎて半泣きになっていると、男が俺の頬に手を当て、舌で涙を舐めとる。
「穂高さん」
 顔全体を犬の如く舐め回す男が、ようやく舐めるのを止めたかと思うと俺をジッと見据えた。今度はなにを言われるのか、思わずゴクリと生唾を飲み込む。
「勃ってる」
「ひっ?!あっ」
 言うや否や、男の手が俺の股間を擦りあげた。薄手のスウェットを穿いていたおかげで男の手の感触がダイレクトに俺の股間を揉みしだく。
 巧みな手淫にちんこがもげそうなほど気持ちよくて、俺は仰け反り喘いだ。
「ああっあっあ、っひあ、っや、あっっ」
 小刻みに揺すられて何かが溢れてしまいそうだった。なんなのこいつ、人間マッサージ機なの?
「穂高さん腰揺れてる。気持ちいいんだね」
「んっち、が、ちがっうううう」
 男に言われて顔がカァッと赤くなった。男の手がひたすらに高めてくるのかと思っていたら、無意識に腰を振っていた自分がいる。だって、だって気持ちいいんだ……!
 ずちゅうううう。
「ふぁっっ」
 止められないでいると、いつの間にかシャツを捲り上げられ、左乳首に男が吸いついた。予想だにしない、想定以上の感覚に、頭が一瞬トぶ。
 と同時に男の手が玉ごときつく締め上げ押し上げ、俺は衝動的にビクビク跳ねながらイってしまった。乳首吸われてちんこ握られ、イってしまったんだ。
「気持ちいい?穂高さん、もっと気持ちいいことしよう」
 もっと気持ち良くなったら俺壊れちゃう。素でそんな事を思った。

「んうっう、あぁ……っ」
「は、あついっ、穂高さん中、あつい」
 床に土下座みたいな格好をして、後ろで正座する男にガンガンに掘られた。
 俺の身体はおかしくなっていて、男に触れられるところ全てが痺れるようだった。ちんこを打ち込まれている中も、揺さぶるために強くしっかり掴まれている腰も、そこからジンと痺れて全身がゆっくり犯されていく。
 俺はそんな自分に抗えなくて、床でうずくまって喘ぎ声を必死に噛み殺すしかなかった。
「穂高さん、っ熱くて、ちんこ溶けそう」
 お前チョコだもんな。ってちげーから。
「んっあ、やめ、っっ、」
 男の手が肩に触れて、しっかり掴み、俺の身体を引き起こす。完全に正座の状態になって、後ろから強く抱きとめられる。深さと密着度が増して身体中が快感の歓喜に打ち震えた。
「穂高さんっ」
 イくっ、の代わりに俺の名前を呼びながら男が俺の中で果てる。奥深いところに、若干長い時間びしゃびしゃと熱い精液を注がれて、謎の幸福感に包まれた。もっと満たして欲しい、そう願っていた。
「んん……」
 ずるりと引き抜かれ、それがなんとなく名残惜しく感じていると、今度は床に仰向けに寝かされる。
 足を抱えられ、男がゆっくりと挿入した。
「穂高さんの中、僕のミルクで満たしてあげる」
 ギラギラとした目が俺を見つめた。俺は身体がぶるりと震えたが、それが恐怖からくるものなのか、止まない快楽を期待してなのか、わからなかった。
「愛してるよ、穂高さん」
 男の、甘いキスで口も思考も塞がれる。


「という夢を見た。俺は死にたい」
 講堂の机で頭を抱えて、隣の関くんにそう嘆きを零すと、慰めるように頭を撫でられる。俺は涙が止まらなかった。

終わり



 後ろの方の席で例の褐色男がじっとりと俺を見つめている事に気づくのは、一ヶ月後のこと。
 あれが夢なのか現実なのか、俺にはわからなかった。
 けれどひとつだけの事実があった。あの夢のような日の翌朝、けつにゴリゴリの違和感がありトイレでいきむも出てこない。半分出かかっている異物。恐る恐る手で引き抜く。出てきたのは俺の直腸を象った白い塊。
 それがホワイトチョコレートだったのか、恐ろしくて確認できていないが、トイレが詰まったので泣きながら棒で押しつぶした。
 あれは一体、なんだったのだろうか……。

終わり

なんだこれ/(^O^)\

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