今誰かにお伝えしたい。男なのに痴漢にあってしまっていることを。なぜ。なぜ俺なんだ。横には可憐なJKがいるのに。甘くてふわふわな匂いする。いや、JKを痴漢するなんてダメに決まっているけれども。
 けれどもなんで俺なんだ、そう叫びたい衝動にかられるのを必死で堪える。
 だって俺はリーマンで172cmあるフツメンの20代後半男だぞ。ケツを触るその手を掴んで「きゃー!痴漢です!」なんて言えるか?言えない。俺にはできない。
 そもそもなんらかの間違いかもしれないし。そうだ、間違いだ。これはただの偶然に過ぎない。これだけ混んでるんだし、駅に着くたびに微妙に位置をずらしてもぴったり付かず離れず、左の尻肉をひたすらにやわやわと、いっそ心地良くてそういうマッサージなのではと思うくらい揉まれていても……そんなのがただの間違いであってたまるかと言う話で。
 くそ、なんで俺なんだ、と俺の思考は同じことを繰り返した。顔は見えないが、ケツを触る腕にはお高そうな時計をしている。指輪は中指にシルバーのがキラリとはまっていてなんだかシャレオツ。ていうかスーツもいいとこのブランドじゃないのか?金持ちか?こいつ金持ちの道楽で痴漢してんのか?金持ちなら車でリムジンで会社に通えよ。やっぱり金持ちの戯れなのか?
 現実逃避したい脳が明後日の方向に思考を進めていくので、俺は諦めて現実に向き合うことにした。
 そういえばSNSで痴漢撃退法を見た気がする。どこで使うんだよ、と思いつつなるほどな、と思ったあの手、今こそ使う時だろう。
 俺はふう、とため息を吐いて、なるべくJKには聞こえないよう祈りながら言った。
「あー、うんこしてぇ」




 なんでだ。なんでなんだ。うんこしたいんだぞ、俺は。なんならすかしっぺの一つや二つしてるかもしれない。そんなの嫌じゃないのか。
 痴漢野郎は揉むのを止めた。そのかわり、中指で的確に俺のケツ穴をこすこすとこすり続けた。もちろんスーツの上からだ。これが直になったらその時はもうこいつの腕を折るしかない。
 とは言えだ、ケツ穴を執拗にこしこしこしこしこしこしこしこしされてみろ。いや、うん、まじでちょっとうんこしたくなるんですけど。なんなら朝トイレに行きそびれてしまった事を呪いたくなるくらい便意近付いているんですけれど。
 いつになったら俺の目的の駅に着くのか、そんな事さえわからなくなってきた頃、痴漢が囁いてくる。
「こんな満員電車で、いい年した男が、スーツの中にうんこ放り出してみろよ。それオカズに3回、いや、3年ヌけるくらい興奮する」
 あ、変態だ。どうしよう、この変態どうしよう。どうしようもない変態を、どうしよう。


終わり

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