今日も今日とて茹だる暑さに辟易しながら、配達地域を駆けずり回った午前。昼休憩に戻ると、ちょうど自販機でコーヒーを買っている河渡がいた。
「おつかれかわとー、俺もコーヒー飲もう」
 疲れていたのがどこかへ吹っ飛び、俺は河渡の方へ駆け寄る。河渡と同じコーヒーにしよう、そう思ったのに、そのコーヒーは売り切れていた。
 カシュッ。片手で器用に缶を開けた河渡が、そのまま俺にコーヒーを渡してくる。
「それ、飲んでいいぞ」
「え?あ、ありがとう」
 まだ口もつけていないコーヒーを貰っても……いや、俺はなにを考えているのか。ありがたくちょうだいして、早速一口。
 火照った身体をキリッと冷たいコーヒーが駆け巡る。
「そういえば河渡ってタバコ吸わないのか?」
 いつも喫煙所になっている屋上で寝ているくせに、タバコを持っている気配もない。ふと気になって聞くと、河渡がくれたコーヒーを俺の手からさらっていく。
「吸う」
「へー、意外。吸ってるとことか見てみたい」
 高校の時の河渡と言えば、不良でもオタクでもなく、平凡な生徒だった。俺は先輩に勧められて一時吸っていたが、ニートになった時に辞めてから吸っていない。
 河渡のタバコを吸っている姿はきっとかっこいいに違いない。
「吸ってるとこ見たい?」
「見たい見たい。いつ吸ってんの?」
 俺が前のめりにいうと、河渡はニヤッとしてコーヒーを飲んだ。間接キスだ、なんて思っているとそのコーヒーをまた俺に押し付けて俺の耳元に囁く。
「セックスしたあと」

 手から滑り落ちそうになった缶コーヒーを慌てて強く握る。囁かれた耳からカッと身体が熱くなった。
「ちゃんと休憩とれよ」
 河渡は俺の肩を叩き、そう言うと行ってしまった。
 俺はその場からしばらく動けなくなった。ベッドの上でタバコを吸う、上半身裸の河渡がありありと想像できてしまったから。
 とりあえず落ち着こうとコーヒーに口付ける。あ、間接キス。
 俺はまだしばらく、落ち着けそうにない。

終わり

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