時折、脳裏に浮かぶ女性の顔。それが笑顔か泣き顔なのかも曖昧なほど、微かな記憶。
 それが誰なのか、もしかしたらーー。

「あ……あ……っ」
 丸い鳥かごを模したショーステージの中で、十字を象る椅子に磔にされた48(ヨツバ)がこれから自分の身に起こる事を想像して声を上げた。
 ここは完全会員制高級クラブの奥底で息づく秘密クラブ。限られた客のみが訪れる事を許された、享楽の間。
 48はこの店の店員、という体の、囚われた奴隷。名前も身体の自由も奪われ、人らしく生きる事も許されない。
 48の身体には筋弛緩剤が使われていた。この店には専属医師がいて、彼の手によって薬物が使用されていた。
 筋弛緩剤によって開いた肛門。ピンクの襞が息づくそこに、常連は電気刺激を与えるためのパットを貼り付ける。前立腺にきちんと貼り付けられているか確認するため、常連がパットをぐりぐりと動かすと、48の性器も揺れて動かされる。
 その性器には金属で出来た棒が刺さっている。電極だった。性器の奥、前立腺を刺激するよう固定されている。
 常連がこちらを見たので、どうぞと促すと常連は電気のスイッチを入れた。肛門に使っている電気パットと、性器に刺さる電極はそれぞれ別の装置から電気を流している。それらの電圧を早いペースで上げていった。
「んあああああああああっっ」
 48の悲鳴が上がる。電気刺激に、人は耐える術を持たない。電気の刺すような刺激に、勝手に身体が反応するようだが、身体は寸分も動かないよう固定されている。48の半狂乱になって叫ぶさまを、常連は嗤った。
「えぐっうっあっぐううっひっ」
 48は泣きじゃくりながら終わらない責めに身体を跳ねさせる。
 神経を削るような苦痛で、絶望しながら48がこちらを見た。
 彼は時折、縋るような目でこちらを見る。救いを求めるように。そんなものないのは分かりきっているのに。そうだろう?と、問いかけるように視線を送れば、彼らはそれで救われたように微笑む。
 その表情を見る度に、記憶の奥底にいる、誰かもわからない女性の、曖昧にぼやけた顔を思い出す。
 あれが笑顔なのか、泣き顔なのか、そもそもあれが誰だったのか。

「店長、48の事が気に入ってしまってね。是非うちに連れて帰りたいのだが」
「ええ、そろそろと思っていましたよ。ただ今日はあんなですんで、綺麗に整えて次回連れて行ってあげてください」
「ああ、楽しみにしている」
 常連はそう言うと、泡を吹いて気絶した48をチラリと見つめてから帰っていった。
 ここから出て行った店員のその後は、誰も知らない。けれど、限度を知らない常連たちの事だから想像がつく。
「お前もいよいよだね」
 48を、気付け薬を使って起こしてやる。瞳が大きく揺れて、縋るように手を掴んで離さない。
 筋弛緩剤と電気の影響で動けない48を抱き上げて、元の檻に戻す。最近は新しいのを補充していないから、どんどん減っていくばかりだ。

 48の、ここに囚われた彼らの、時折見せる表情に彼女を思い出す。
 彼らが救われたような顔をするように、彼女も、僕に救われたのだろうか。


終わり

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