昼休み、食事を終えた生徒たちは各々に休憩を取っていた。
 昼飯はいつも、浅間(あさま)と食べていた。俺は別のクラスだ。昼休みが始まると壁際の席に座る浅間の所へ行き、壁を背もたれに床に座った。
 今浅間は机に突っ伏して眠っている。
 浅間はスイーツ男子だ。甘いものが好きでコンビニデザートに詳しかったり、甘いもの好きが昂じて自らスイーツを作って来たりする。
 今日のデザートは、白いもちもちの皮と甘酸っぱい苺で作られた大福だった。浅間は将来、菓子職人になるんだろうか。
 眠る浅間の手が机からするりと落ちる。床に座る俺の目の前で揺れて、止まる。
 繊細なお菓子を作る浅間の手も、白くて繊細で、綺麗だった。傷一つなく、毛も生えていない。砂糖でなめらかに作られた人形のよう。
「……」
 甘そう。
 そう思って指先を舌で舐める。よくわからなかった。けれど、浅間も起きる気配がないから俺は、浅間の人差し指を口に含んだ。
「んあ……」
 さすがに目覚めた浅間が、指を咥える俺を静かに眺めた。寝起きだからよくわかってないのかもしれない。
 口の中の人差し指は、甘い気がした。
「はっ……オレの指より甘いものあげる」
 浅間の指が口の中から引き抜かれた。名残惜しく、目で追うとその指が、手が俺の顔を包む。

 ちゅ……。

「甘いだろ?」
「ほんと、甘すぎ……」
 唇に残る、甘い感触は忘れられそうにない。

終わり

戻る

戻る