学生時代の事だった。クラスメイトが急に体調を崩し、蹲って粗相した。
 彼はその前の連休に、事件に巻き込まれていたという。その話があったから他のクラスメイト達はみな、汚いとか臭いとかよりも同情や憐憫の情を向けていた。
 そう、可哀想。そんな感情を抱くのが当たり前なのにその時俺は、どうしようもなく興奮していたのを覚えている。

「……せい、市谷(いちたに)先生」
「あ、ごめん。なに、問題解き終わった?」
 ハッとして声の方を向く。布田川(ふたがわ)くんは心配そうに俺を見つめ、ふう、とため息を吐いた。
「なんか最近上の空だね。なにか悩み事?」
「そう見えたかな? ごめんね。ちょっと学生時代の事を思い出して」
「へえ、どんなこと? 当時の彼女とか?」
「そんなのいないよ。ほら、終わったとこ見せて」
「はいはい」
 課題に目を戻し、話を誤魔化す。
 俺は今、家庭教師の仕事をしている。布田川くんは俺が受け持った最初の生徒で、高校二年の頃から受け持っている。その流れで大学一年生になった今でもこうして勉強を見ているのだった。
 布田川くんは高校生の時からキリッとした目元と八重歯が覗くはにかんだ表情が可愛らしい男の子だった。
 俺よりも身長は低かったのに、今では180を優に超えて体格も良くすっかり見違える。街を歩けば自然を集めるような、カッコイイ青年に育ったものだ。
「ここはこうした方が表現としては正しいかな。こっちの書き方でも間違いはないけど」
「うん、わかった」
「それから……ここも」
 ぶるっ、と身体が震える。突然湧き上がる尿意に生理的な反応が出た。ちらりと壁の時計を確認すると、受け持ち時間終了まで三十分を切っていた。
 ここで席を立つのも微妙だし、少しくらい我慢してもいいか。そう判断して解説を続けた。
「じゃあここ、もう一回やってみて。今日はここの部分で終わりだね」
 カチ、ストップウォッチをスタートさせて見守る。ああ、今トイレに行けば良かったのか。どうしよう、でももう少しだし。
 本当にすごくよく頑張ってるなあ、真剣に取り組む布田川くんの邪魔をしたくない。と思いつつ、じりじりと尿意が高まるのを感じた。
「先生」
 布田川くんが俺を呼び、机の上に置いていた手を握る。
「トイレ行きたいんでしょ」
「あ、うん、バレた? ちょっと行ってこようかな」
 尿意を堪えてる事に気付かれてカッと顔が熱くなった。でもわかってしまったのならこれ幸いと、俺は立とうとして違和感に気付く。
「ん……?」
 身体が酷く重く感じた。頭の奥が溶けるように、立ち上がろうとしても足に力が入らない。それどころか、全身の力が抜けていく。
「薬効いてきたみたいだね。先生の願望を叶えてあげたくてさ」
 俺の願望?なにそれ。そう聞き返したくても意識は朦朧としていく。
「我慢しなくていいよ、先生」
「う……」
 つい、と布田川くんの指が股間を撫でた。それがきっかけに、身体の緊張が解けていくのがわかる。
「こないだ先生のスマホの画像見ちゃった。びっくりしたけど、こういうの好きなんだってわかったから」
 布田川くんが内股を撫でる。
 馬鹿なことをしたと思った。学生時代の事、隣の席のクラスメイトが蹲り粗相をした事を覚えている。
 そしてそれは俺の性癖へと変わり、そういった画像や動画に性的興奮を覚えていた。少しずつ増えていくそれらに罪悪感を覚えながらやめられなかった。
 布田川くんはそれを見たと言うのか。
「うあ……や、」
 カリカリと布越しに爪を立てられ、急かされるまま身体を弛緩させる。
 最後の抵抗に「違う」と呻いてみても、もう止められるものではなかった。
 俺はただ、見ていたかっただけなのに。
 しょろしょろと溢れて広がるシミを見届けながら眠りに落ちる前の微睡と、解放された尿意の快感に涙が流れる。
 意識はそこで暗転した。



「あ、よかった。先生起きて」
 頭と瞼が重たくて、ようやく目を開くと視界は白くぼやけていた。横から声がして顔が覗き込む。
「中々起きないから心配しちゃった。最近寝不足だった? 薬効きすぎちゃったかな」
「薬……」
 子供みたいな無邪気な顔で喋る彼に、違和感を覚えて背筋がゾッと凍えた。
 そうだ、俺は薬を盛られて、それから粗相をしてしまったんだ。無理矢理体を起こすとズキズキと頭が痛い。
 大丈夫?なんて嘘くさい言葉を布田川くんは言った。その瞳はいつもと何も変わらなくて、心底心配してくれているようだった。
「今何時……」
「もう夜中の二時になる頃だよ。電車もないから泊まって行きなよ」
「そんなわけには……」
「ねえ」
 布田川くんが俺の腕を掴んだ。じっとりと熱くて、少しも動かせないくらい強い力だった。
「市谷先生、おしっこ好きなんだね」
「なに……なんだよ」
「ごめんね寝てる間に検索履歴とか見ちゃったんだけど、スカトロっていうの、色々奥が深いなって」
「違う、俺は……ちょっと気になっただけだし俺がしたいわけじゃない」
「そうなんだ?」
 教え子の前で何を言ってるのか、言い訳とか釈明ともならない事を言いながらため息を吐いた。
「じゃあオレのしてるとこ見る?」
「え?」
 布田川は俺のを手を掴んでバスルームに連れて行かれる。そこで気付いたけれど、俺の服は着替えさせられていたらしくて少し大きめなシャツとスウェットになっていた。
 おそらく、というか間違いなく布田川くんの服だろう。
 そういえばお漏らしさせられたんだよな……。屈託のない笑顔で笑うけれど、布田川のそんなところに恐ろしさを感じた。

「へへ、恥ずかしいな」
 俺はバスタブの端に座らされた。布田川は履いていたズボンとパンツを下ろし、ナニを取り出す。
「先生、見てて」
 ぺろり、と舌なめずりして、俺の目を見ながらいう。
 布田川くんは「ふう……」と小さく息を吐くと、しょろ、しょろしょろしょろと音を立てておしっこをし出した。
「……」
 弧を描いて放たれた液体はびたびたと床を汚していく。少し眉尻を下げて、でも気持ち良さそうに排泄する布田川くん。
 何を見せられているんだろう。でも、俺はそれが終わるまで呼吸も瞬きも忘れて、じっと見入ってしまった。
「……はは、アハハ、先生まじか」
「え」
 布田川くんはぴっぴと水を切ってナニを仕舞うと、俺を見て笑った。
「マジでそんなに好きなんだ」
 シャワーを出して床を洗い流しながら布田川くんは俺の横に座る。空いてた方の手が俺の股間を撫でた。
「可愛い、先生。先生が見たいなら、またしてあげる」
 少し勃ったそこを撫でて布田川くんは耳にささやいた。

終わり


戻る

戻る