キャストを見ながらオナニー出来るという風俗がある。他の風俗と違って自分の身体を晒す事も無ければ、ご奉仕してあげる必要もない。
 ちょっと気持ち悪いおじさんや変態的なお兄さんが一人でしてるところを見てるだけ。それだけでお金がもらえるんだからこんな楽な商売無いよなあ。
「梛(ナギ)くん、お客さん」
「はいは〜い」
「ご新規で指名、手コキ、隣のホテルね」
「了解で〜す」
 待機室で待っているとお客さんから指名されて、店舗内の部屋でするか隣のラブホに呼び出される。
 ホテル代は向こうもちだし、指名料と手コキ込みなら俺への配分は○千円くらい。
 常連になってくると基本料だけの本当に見られてるだけで抜けちゃう人とかいて、それだと報酬もしょっぱくなるからあんまりだ。
「ああ、そのお客さん自称王子様だから」
「おうじさま〜〜?」
「そ。1003号室ね。いってらっしゃい」
「えっ……マジかあ」
 1003号室、つまり最上階のちょっと良い部屋だ。そのホテル代でもっと良い店に行く事も出来るというのに、わざわざオナクラなんだから、確かに金の使い方は王子様っぽい。

 コンコン。1003号室の前で二回ノック。ガチャ、扉が開いて現れたのは長身、少し髪の長いイケメンだった。備え付けのガウンを着て、ほんのり香る匂いはどこか甘い。
 うっそ、まじか〜〜こんな顔だけで食っていけそうな金持ちがオナクラってどんな事情?意外と童貞とか、包茎とか?わかんないけどなんか楽そうでラッキー。
 なんて事を全て覆い隠す笑顔で口を開く。
「こんばんはー、梛くんで〜す」
「ああ、入れ」
 態度も王子様ってか。風俗慣れしてるのか、童貞特有のアワアワ感はない。
「失礼しまっす。もうシャワー浴びたんですか〜?」
「その間延びした喋り方やめろ、敬語もいらない」
「え? あ、ごめん。わかった」
 ちょっと気まずい雰囲気。不機嫌になられて抜けなかったら意味ないもんな。
 にしたってこの媚びた風な喋り方、客受けは悪くないはずなんだけど。
「えっと……じゃあ前金で指名料と手コキ込み○万円、追加で他にオプション付ける?」
「他に何が出来る?」
 お、意外と乗り気。追加オプションは全部俺の報酬だからありがたい。
「キスとか〜言葉責めとか。乳首いじめとかもあるよ。フェラと素股俺はNGなんだけど、お兄さんカッコいいからしてあげても良いよ」
 もちろん有料だけど。笑いながら言うと、お兄さんもフッと笑った。随分柔らかい笑顔をするもんだ。
「いや、いい。そうだな、キスだけ付けてくれるか」
「はい、キスは○千円で」
「安いな」
 キスの値段を聞いてなんとも言えない表情をした。喜んでいるというよりは悲しんでいる、いや、同情されてるのか?
 キスで○千円は高いよタダでさせて、なんて客もいるからな。キスごときで同情されるとは。
「アンタもしかして本当に王子様?」
 自称王子様は、分厚い財布から綺麗なお札を数枚出した。それは料金より三割ほど多い額だ。
「そうかもな。釣りはいらない」
「わーい、ラッキー。王子様バンザイ」
 渡された金を財布にしまい、ベッドに座る王子様の前に立つ。
「王子様、お名前は?」
「れお」
「れお?」
「ライオン、獅子の獅の字一つで無理やりそう読ませる」
「へ〜当て字ってやつか。でも、かっこよくて似合ってる」
 豊かな髪がライオンの鬣を彷彿とさせる。ふいに指ですくって撫でてしまった。
「お前は?」
「俺は梛。って言っても捨て子で施設の前に置いてかれてて。手に持ってたぐしゃぐしゃの紙にそう書かれてたんだって」
「そうか」
 思わず喋ってしまったけどまた気まずい雰囲気になった。重たい話は萎えるからしないようにしてるんだけど、なぜかこの人には喋ってしまう。
 こういうのもカリスマ性とか言うんだろうか。
「な〜んてちんこ萎える事言ってごめんね。まだ平気? キスしよっか」
「ああ……お前からしてくれるのか?」
「うん」
 れおさんの顔を抱いてキスをする。軽く口付けて、唇を弄んだ。物足りなさそうに、餌をねだる小鳥のように口を開いたから舌で歯列をなぞる。
 俺より熱を持った舌が絡められて、深くキスをした。
 王子様は目を逸らさないでキスをしてくるから俺は少しドキドキした。強い視線に犯されそうな気分。
「んはっ、あ、」
 濃厚なキスと軽度の酸欠で立ってるのが辛くなる。一旦キスを止めようと離れると、頭と背中を手が押さえて再びキスに溺れた。
 俺は王子様の膝の上に座って貪られるがままだ。
 内股に当たる硬いものが、王子様のソレだとわかりちゃんと勃起出来ているようで少しホッとした。
「んっんんっ、んはっ、おさわりは、ダメ」
「悪い、つい」
 王子様の手が不意にお尻を撫でた。思わずビクビクと仰け反ってしまい、慌てて静止する。
「なんだよ、アンタ童貞でも無さそうだし、なんでオナクラなんか来てんの」
 意識をケツから逸らさせるために、王子様の前のチャックを下ろしてあげる。
 指の背に触れたソレは熱くて硬くて大きい。
「性欲処理の為に女を当てがわれてんだよ、前から。でもある時急に、なんでこんな生産性のない事してんだって虚無になって」
「あ〜〜賢者タイム的な?」
 まあでも生産性の無さ度合いで言えば、男同士、ともすれば一人で抜くだけのこの仕事の方がよっぽどだ。
「女じゃ勃たなくなった。オナニーの仕方もわからないから、来てみたら好みの顔がいた」
「え? 俺の顔が可愛いって?」
「ああ」
 冗談だったのに、ニヤニヤ笑いながら言ったのに、王子様は真顔で頷いた。一気に顔が熱くなる。誤魔化す為に口を開いて、舌も回る。
「わ〜〜……俺この顔で生まれて良かった」
 そんな事を言うとまた優しく笑う。あー、その顔ちょっと好きだな。
「え、てかオナニー知らないって何?」
「言っただろ? 女を当てがわれてたって」
「はあ〜〜? じゃ常に抜いてもらってたわけか。ソロプレイ初心者とか……王子様やばー」
 ちんこの持ち腐れじゃん。いや、本番はいつもしてたんだからいいのか。金持ちわけわかんねえな。
「見せてくれよ、オナニーの仕方」
「ええ……俺のオナニーは有料ですけどぉ?」
 指で輪っかを作って金のマークを見せると、王子様は後ろ手に取った財布を俺に押し付けた。
「そこから好きなだけ取れ」
「はあっ!? はあ??? いやこんないっぱい金あったらどこでも本番出来んじゃん」
「お前がいるのはここだけだろ」
 うわーーーー。なんかさっきから口説いてくるなこの王子様。うう、マジか、マジかあ。
 こんな仕事だからそりゃ本番やらせてくれって客もいた。でも、こんな、こんな王子様みたいなのは初めてで、俺は戸惑ってしまう。
 得意の舌も回らない。
「見せてくれんだろ?」
「っ……ああっ、もう、わかりました」
 俺はきっちりオプション分の金額だけ財布から抜いてベッドに横になる。
 俺のオナニーが見たい客だっていたし、見せてきた。でも、こんな気持ちでやるのは初めてだ。
「はあ……やばぁ、顔あっつ」
 ニヤニヤ笑ってる王子様の顔をそれ以上見るのは、なんだか恥ずかしくて耐えられなかった。
 俺はそそくさとズボンとパンツを脱いで、何故か緩く勃つソレを握った。
 先端をクチュクチュといじり、先走りで濡らしていく。扱きながら、不意に王子様のナニが目に入る。
 俺のよりも大きくて立派なソレを、王子様のでかい手が扱いていた。
 オナニー初めてなんて嘘だろ、そんな適当な嘘。扱きながら気付く、俺が上に擦ると王子様の手も上に。下に扱くと王子様の手も下に。
 真似されてる。ああでも、でも教えろだかなんだか言ってたし、そう言う事なんだろうけど。
「んん……」
 なんとも言えない気持ちになる。倒錯的だ。俺の手が王子様のを扱いてるような、王子様に俺のを扱かれているような気持ちにもなる。
 でもそれが気持ち良くて、熱くて。
「はあ……ん……」
 イきそう。ティッシュを取ろうと手を伸ばすと、その手を王子様の手が掴んだ。指と指を絡めて握る。
「梛……」
「んあ……」
 熱っぽい声が耳元で俺を呼んだ。
 思わず見上げて、濡れた王子様の目と目が合う。
 堪らなく溢れてくるものを感じながら、ゆっくりと近づく王子様を見つめた。
 唇が触れて、手の中が熱くなるのを感じた。


「はあ、もう、もうっなんだよ、オナニー初めてとか絶対嘘!」
 ティッシュで、ベッドに放たれた二人分の精液を拭う。
「ぐう……」
「はあっ!? 寝るなって、もう時間なんだから」
「お前も寝ろよ、一緒に」
「おわっあ、添い寝と延長は別料金」
「好きなだけ持ってけ」
「だあっ、この、王子様は」
 長い腕が俺を抱きしめた。子供みたいに高い体温に包まれ、柔らかい吐息がかかり、俺も眠りたくなってくる。
 後で目が覚めたら色々理由つけて金をふんだくってやる。なにせこの人、王子様なのだから!

終わり


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