※大小スカ表現有り

 あああ馬鹿だろ本当馬鹿だろトイレットペーパー買い占めとかほんとほんとほんと。

 今朝のこと、トイレットペーパーがあとひと巻きしかなかった俺は今日の帰りにドラッグストアにでも寄ってトイレットペーパーを買って帰ろうと思ったわけだ。
 それがどういうことか、ドラッグストアをはじめ、スーパー、コンビニ、などなどを巡り巡って全ての店でトイレットペーパーが売り切れていた。しかもティッシュも売っていない。
 え、なに、オイルショック?これが噂の?本当に?
 混乱しながらSNSを覗くと、紙製品の流通が止まるだかのデマで買い占めが行われたらしい。
 はあ、馬鹿馬鹿しい。馬鹿じゃないのか?もしかして馬鹿?
 もういいよ、明日か明後日か、とにかく少ししたらトイレットペーパーはまた入荷されるんだ。
 はあ、とため息をついて家に着いてハッと気付く。
 ああ、そうだ、今朝でトイレットペーパー切れたんだ。そもそも朝でひと巻きってめちゃくちゃ危なかったぞ。馬鹿なの俺は。
 そして困ったことに、中々な便意が迫っていた。ああ、くそ。くそって、いや、そういう意味じゃなくて。ああ、もう。
 気にしないフリをしてみても便意は高まっていく。会社でトイレ寄ってくればよかった。なんなら朝買っておけばよかった。
 後悔しても後の祭りだ。いや、そんなこと言ったって仕方がない。
 だいたいだ、大体にして買い占めてる連中のどれだけが今そのトイレットペーパーを必要にしているのだろうか?
 品薄になるからとストックがあるくせにトイレットペーパーを余分に買っているのではないか?
 ともすればその余剰分は、本来必要としている人の手に渡るべきだった筈だ。そう、例えば俺とか、俺とか俺とか。
 ストックのある連中は次に入荷した時に買えばよかったんだよ。なぜなら今、この時に必要としていないのだから!!!
「あああっなんかっ、腹痛いんだけどっ」
 ギュギュギュ。昼に食った豚キムチ丼かなり辛かったもんな、ケツに来たか、来てしまったか。
 俺はどうしたらいい。うちのトイレウォシュレット付いてないんだよな……だいたいウォシュレットって死角から水流をぶち当てる危ない装置じゃん。怖いじゃん。ウォシュレット……お前さえいればトイレットペーパーなんていらなかったのかな……?

 混乱で馬鹿な妄想をしていると、隣からジャーという今し方トイレ使いましたな音が聞こえた。
 そうだ、こんな時こそご近所同士助け合うべきだと思う。ていうか助けてくれ。
 ピンポーン。
「はい」
 藁にもすがる思いで隣の家のチャイムを押した。中から出てきたのは大学生くらいの男だった。明るい茶髪で身長が高くて顔が小さい。一見するとモデルでもやってそうなこんな男の子がなぜこんな安アパートに?
 そして俺はこんな男の子にトイレットペーパーを強請ろうと言うのか……?
「あの、なんなんですか」
「あ、ああ、あのすいません。隣に住んでる者なんですが……ぐうあっ」
 迷っていると、男の子が困惑した顔で言ったので慌てて自己紹介した。
 その瞬間腹が捻れるように猛烈に痛み出した。ああこれやばい、この波はきっと一旦過ぎ去るだろうが、次の波が来る前に早急にトイレに駆け込み解放したいそんな思いが込み上げる。
「あの……はあ、はあ、とい、トイレットペーパー、一つでいいんで貰えませんか、ほんと、限界がやばくて……」
 ああ、俺なに言ってるんだろう。でも限界が近いのは確かだった。近いっていうか若干限界は突破してる。残っているのは人間としての尊厳を賭けた必死な思いの括約筋だけだった。
「……」
 訝しげな表情をしている。それもそうだろう。今の時代、トイレットペーパーを隣人に求める事があるだろうか?ないだろうな。
 こんなことならコンビニに駆け込んでトイレ借りればよかった。そう後悔したところで、今駆け込もうとしたら三歩で大惨事だった。
 三歩で……?トイレットペーパー貰えたところで間に合うのか俺は……?
「うちもストックあんま無いんで、今使ってる分で良ければ」
「ほんとですか!? あああっあっやばい、あっあっ」
 喜びを噛みしめた瞬間嫌な感触がした。まずい、非常にまずい。
「限界なんですか?」
「……出ちゃう……」
「うちのトイレ使ってください」
 ああ、神よ。天使よ女神様よ。今までほとんど会話をしてこなかったただの隣人でしかないこの男の子に今後最大限の祝福をもたらしたまえ。
 俺は半泣きでありがとうございますと言いながらトイレにすり足で向かった。ケツに力を最大限入れているので、そうやって歩くしかなかった。
「はあはあはあ……あの……?」
「なに? 早く座ってしなよ」
 あれ?なんか態度変わってない?さっきまで敬語だったはずなのに。
 男の子はトイレの入り口に立って寄りかかり、俺の方をじっと見ていた。
「あの、ドア……」
 ベルトを外しホックを外しチャックは下ろした。ズボンとパンツのゴムに手をかけたところで、男の子にマジマジと見られていることに気付いてそこから動けない。
「変なことされたら困るし。見てるからしていいよ」
「え……」
「漏れちゃうんでしょ? それとも嘘だったの?」
 じわりと追い詰められる言い方に頭が混乱した。いや、確かに急に隣人が来てトイレットペーパー下さいうんこ漏れますなんて言われたら、はあ?なんだこいつ変態か?と思わなくもない。いや、こんな見た目の良い男の子ならちょっと騙されちゃうかも、とかそういうことじゃなくて。
 じわじわと変な汗をかいてきて、括約筋が緩みだしていた。熱い迸りが穴を焼いている。
 ええい、ままよ。
 ずるっ、ズボンとパンツを引きずり下ろし便座に腰掛けた。ああっ、出る、出るって。
「見せて」
「ひええっ」
 ずるっと足が持ち上げられて、大変危険な角度になった。ケツは便座ギリギリ、油断していた俺はいきんでいて、それはもはや止められない。
「んあっく、あ、」
 変な体勢で苦しい。でも我慢し続けていた排泄欲の解放はたまらなかった。

「はあっはあ、はあはあはあ」
「終わり?」
「お、おわ、おわり……」
「ふーん」
 カラカラカラカラ。男の子は手にトイレットペーパーを巻き取り、俺の汚れたケツを拭き拭きする。
「や……」
「動かないで」
 トイレットペーパーは便器に捨てられ、ジャーッと流される。そして男の子はまたペーパーを手に巻き、俺のケツを丁寧に拭いた。自分で拭くより丁寧にされてる、そんな気がする。
「おしっこは?」
「ひえっ」
 なんで?なんでちんちん握られてるの?
「あっや、やっ」
 先っぽを指でぐりぐりされる。そんな事されたら、やばいって。
 やばいのに拒めない俺は、あうあう喘ぎながら込み上げる尿意に頭を振る。
「出る?」
「出るっでちゃっ」
 じょろっ、出る瞬間に便器の方へ向けられ、男の子に握られたまま長い放尿をした。
 溜まってたんだなあ、とどこか他人事のように思えた。

「じゃあまたしたくなったらうち来なよ」
「誰が二度と来るかっ! ……ありがとうございました」
 バタン。結局トイレットペーパーのストックは貰えず、したくなったらおいでと言われつい悪態を吐いた。
 とはいえトイレを借りれた事には感謝しないわけにもいかないから感謝も述べて。
 はあ、明日朝一でトイレットペーパー買いに行こう。そう誓って眠った。

 翌朝、寝起き早々切羽詰まって結局隣の家のチャイムを連打するのは別の話……。

終わり

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